※「エヴァ」から「王立宇宙軍」に入る人のために
●通底するモチーフ:(1)だめな主人公
「エヴァンゲリオン」の主人公シンジ君は現実のだめなオタクを投影している
と言われる。でも、そりゃ「ちょっと違うだろ!」って気がする部分も多い。実
際のオタクってのはもっと平気でへらへらしてられて図太くて鈍感なんじゃな
いか、とか思ってしまう(いや、俺がそうだからなんだが)。で、「王立宇宙軍」
の主人公シロツグ君も、明らかに作品を見ている観客自身を、そして製作者自
身の姿を投影している。
まぁ、シロツグを見ると 「ああ、やっぱ山賀カントクはどっちかってぇと庵
野カントクのような病的な真性オタクじゃなくて、もっと健康的な人間なんだ
なぁ」 とか思ってしまうが(そこが今一つ食い足りないとこでもあるんだけど)、
それでもシロツグのキャラクターのだめさ加減はかなりリアルだ。物語冒頭、
シロツグは一応自らの意思で「宇宙軍」に来ているが、てんでやる気はなくいー
加減だ。「エヴァンゲリオン」の冒頭、シンジ君は非業なオヤジの身勝手で第三
新東京市に呼び出される、この辺、シンジ君は自分の意志とカンケーなく一方
的に不幸に巻き込まれた社会の被害者(笑)か? ってぇと、それもやっぱ自分
の意思で来たわけでしょ、そんな「ボクは巻き込まれただけだ」なぁーんて言い
訳はきかない、テメェで選んだことなんだからきちんと責任もってやれよな、
ってことが後々迫ってくる。
シンジ君よりなんぼかのーてんきなシロツグ中佐は、自分から進んで入った
筈の宇宙軍で「こんなとこ居たくない」と弱気になりかけてた所で、たまたま知
り合ったリイクニに 「素晴らしいお仕事ですね、星の世界に出かけていくなん
て」 なぁーんて言われて有人人工衛星の乗組員に志願する。はじめの内は順調
だ。しかしその内、ロケット開発中の事故で死人は出る、 「ロケット作るより
難民に食い物よこさんかい」 と叫ぶ世間の存在を知る、国防総省の上層部は計
画をハナからバカにしてる、隣国のスパイの妨害はある、といった自分の意志
と無関係な周囲の展開に弱気になってしまう……って、物語中では、そりゃ単
にシロツグ君が世間知らずで大人の論理をわかってない、ってことが示唆され
てんだけどね。ここで宇宙軍のメンバーは実に素っ気なく 「お前が始めた事じ
ゃないか」と突っ込む。そう、事態は自業自得と言やぁ自業自得なわけだ。
弱気になったシロツグ君はリイクニのとこに行くわけだが、彼女だって自分
の生活がある、そんな甘えさせてもらえるわきゃない。んで、思わずリイクニ
を押し倒しそうになるシロツグ。作品の冒頭でいきなりオナニーする主人公な
ら「エヴァンゲリオン」のシンジ君以前にも、往年の「くりいむレモン」シリーズ
にもいたが(こんなの今の若い者にはわからんか?)、婦女暴行未遂するアニメ
の主人公は後にも先にシロツグ中佐しかいないんじゃないか(笑)。
いや、このへん、実際のオタクを念頭に置くと、ある意味じゃ 「婦女暴行未
遂出来るだけマシ」 かも知れない。そんなことを言ったら女の子を押し倒すこ
とも出来ずに「あんたあたしのことオカズにしてるでしょう」とか迫られて逃げ
まどうシンジ君の方がリアルでぐさぐさ来る感じもある。しかし、どっちにし
ても多くのおたくが一番直視しないで済ませようとしてる性的な部分、「男」で
あることを降りてんだけど性欲はある、目の前の女の子にイージーな 「やらせ
てくれ」 願望は持ってしまう、自分がキツくなると勝手に相手に甘えようとし
てしまう、ってな心理をストレートに描こうとするところはGAINAXのあ
などれない怖さだと思う。ほら、なんかありがちなアニメに出てくる男の主人
公ってのは、苦悩なんかはじめっから乗り越えてる隙のないクールでマッチョ
なヒーロー(「北斗の拳」とか)か、でなけりゃ無条件に女性キャラにもてる穏和
なセンサイ君 (「ああっ女神様」とか一山いくらの「女ドラえもん」パターンにな
んぼでもいるタイプ) のどっちかと決まってるだろ。でもさ、意地悪く言うと、
それってどっちも「男失格」あるいは自分から降りてるオタクにとって、自分の
しょーもなさが一番露呈する性的な部分を直視しないで済ませる「逃げ」なんだ
よな。そーんなお前自身は本当に北斗のケンシロウみたいに隙なくクールでマ
ッチョか? っつーの、はたまたあるいはそんな 「努力も成長もしないそのま
んまの自分」を肯定してくれて 「タダでやらせてくれる女」なんかそうそういる
か? っつーの(くぅー、これでまた反感買いそうだ……)。で、その点、シロ
ツグ→シンジってラインは、従来のそーいうアニメが隠して描かずにいたリア
ルなしょーもなさをきちんと描こうとした数少ないキャラクターだと言えるわ
けだ。
シロツグにしてもシンジにしても、基本的には、当事者性や主体性がなく、
苦労知らずな奴だ。で、側にいる女の子のキャラクターの方がきつい現実を生
きていて「彼女はあんなにハードなのにそれに比べて自分は……」ってところが
自己を認識する最初のとっかかりになっている。そのへんフェミニズム的に突
っ込んで行けば、やっぱ女の子の方が社会的な縛りが強いとか、性的存在とし
ての自己を早くから外部によって意識させられるとか、そーいうことになんだ
ろうけど、きちんと書こうとすると長くなるから今回は措いておく。
ところで「エヴァンゲリオン」ではシンジや綾波、アスカといった主人公たち
が14歳の少年少女なのに対し、「王立宇宙軍」ではこれが20歳前後の青年の集団
だ。「エヴァ」と「王立」での作風の根本的違い、って事でいえばこの点は大きい
だろうし、ここが客の好みの別れる部分でもあろうと思う。というのは 「エヴ
ァ」 の作品世界が持ってる被害者的視点による世界観、ってのは社会的に無力
で無知な子供のものなわけで、あいにくと「王立」は主人公らが既にその先の段
階に行ってる年齢だからだ。「エヴァ」が相当青臭い思春期のお話をやってるの
に対し「王立」はもうちょっと年齢が行ってる分カラっとしている。しかしこれ
は別に「王立」→「エヴァ」と進む内に逆に製作者の意識が退行しているワケでは
ない。「王立」での主人公たち若き宇宙軍士官の描き方は、あれは製作スタッフ
自身の姿でもあるんだろうが、敢えて意地悪く突っ込めば 「思春期の臭い話な
んか描いてられるか」 ってな照れや背伸びも感じられる。これに対し30も過ぎ
て一応大人の視点を手に入れたスタッフが一回転したところでもっぺん思春期
の青臭さを描こうとしたのが「エヴァンゲリオン」だったんだろう。だが先にも
書いたが、自分は「王立宇宙軍」ではそうした背伸びの部分も作品の魅力の一つ
になっていると思っている。 「これが当時のスタッフの『等身大』だったんだ
ろうなぁ」と思いながら観てもらうのがよいのではないか。
それから、言うまでないことだが、シロツグやシンジの「だめ」は出発点、現
状認識であって、その「だめ」を正当化することが目的ではない。
●通底するモチーフ:(2)白眼視される集団
自分は「エヴァンゲリオン」を観ていてついぞ最後まで特務機関ネルフという
集団には感情移入しきれなかった。まぁあの職員たちの事態への緊張感の無さ
加減とかが自分らの世代のスカぶりを反映していてリアルだな、なんてうがっ
た見方は出来るが。
組織や集団の描き方、ってことで言えば、「王立宇宙軍」でのオネアミス王国
宇宙軍は、ネルフとは随分違うのだが、その通底している部分も感じられる。
まず、オネアミス王国宇宙軍も特務機関ネルフも公的機関である。で、科学技
術者集団というか、研究者集団としての側面を強く持っている。で、善良な庶
民からは「俺らの税金でバカなことやってんじゃねぇよ」と言われ、「正義と平
和を愛する人々」(笑)からは「権力の手先」とテロられ、でもって同じ公的機関
でももっとマッチョな正規軍からは「研究機関ってんで甘やかされて調子こい
てんじゃねぇよ」といじめらている、きっつー……。
言うまでないことだが、オネアミス王国宇宙軍も特務機関ネルフも共にどこ
かGAINAX自身を反映している(完全にイコールではないことに注意)。理
解のない庶民ってのはアニメやゲームをバカにしてる世間の人々や観客の一部、
テロをかける道徳の奴隷ってのは、その中でも特に 「お前らのやってることは
ちゃらちゃらしたお遊びじゃないか」 って言ってくるような、まじめで固い人
々、で、同じ権力の陣営にありつつよりマッチョな連中ってのはTV局とかス
ポンサーとか配給会社とか「商売の論理」で動いてる人たち、なんだろうか (…
…って、これはかなり恣意的な当てはめが入ってるんであんまり本気にしない
で下さい)。
まぁ、自分が「悪い人」にはなりたくないような「道徳の奴隷」さんは、 「ロケ
ット作るより難民に食い物よこさんかい」 と叫ぶ世間を突っぱねて手ぇ汚して
るオネアミス王国宇宙軍なんか嫌でしょうね、自分がそんな場所にいたら、い
たたまれなくなって辞めちゃうかも知れない。でもさ、そーいうの「無責任」っ
て言うんじゃないのか? そんなこと言ってちゃ何も作れないんだよ。
実際、ガイナックスの社内にも 「俺達のやってることは本当に『いいこと』
なのか?」 なんて苦悩は絶対あったに違いない。「王立宇宙軍」の製作中も、そ
れが興行的にコケてたときも、恐らく、岡田初代社長と山賀現社長の双方にそ
れなりの言い分があったはずであろう岡田退陣・社長交代劇の時にも、TVの
「えば」がむちゃくちゃな終わり方をしたときも、今回の「えば」の映画でも。
そりゃ、元々がアニメ好きの若い連中がタナボタ式にバンダイの資本やらで
自分らの好きな物を勝手に作らせてもらったりしてんだから、甘いと言えば甘
い、調子こいてるとか苦労知らずで保護されてるなんて言われれればそうかも
知れない。が、そんなことは彼らはとっくに自覚して熟知してるんじゃないか
と思う。「現場」としてのアニメ業界もまた資本の歯車でしかないことは事実だ。
金がなけりゃいい作品は作れない。
そういや何でも、ガイナックスがたまたま運良く「えば」のヒットで関連商品
をぼこぼこ出しまくってる辺りとか、これを「商業主義」と批判する向きがある
かも知れないが、これまでアニメ作っても赤字の場合の方が多くて首の締まる
思いをしながら作品作ってたってんだから、観てるだけの客の立場ならそんな
無粋なことは言うなよ、と言いたい。今必至に稼ごうとしてんのは、少なから
ず次回作「蒼きウル」のため、って側面があるぞ、たぶん。この点は別にガイナ
ックスという会社に限らず世の中の当然の摂理だと思うんできちんと書いとく
が、例えば「商業主義」ってな言葉の批判力には確かに耳を傾けるべき側面もあ
るが、だからといって「商業主義」って言葉で全てを批判し得るって思ってる奴
はアサハカだよ。自分は責任持ってない立場で世の中の端っこの方から愚痴や
やっかみだけを言うなら楽だ。しかしそれだけじゃいつまでたっても自分自身
が力を持つことは出来ない。そういった意味で、GAINAXという集団は、
一方じゃ「俺達って甘いしボロい商売してるよな」と自覚しつつ確信犯的に自ら
手を汚す与党的立場を標榜しながら、でも、かわりに質の高いいい作品は作る、
ってことで帳尻は合わせて、胸を張って観客に還元してる、って感じるんだけ
どね。
共同体の描き方ということで言えば、「風の谷のナウシカ」の風の谷は、どう
にも端から見る分には農村ユートピアに見えても実際に住む気は (というか、
あそこで自分が生きられるって気は) 全くしないんだが、「もののけ姫」のタタ
ラ場なら住めそうな気がする。だって、エボシ製鉄所(笑)の住民なら 「あ、こ
いつら自分が生きるために手ぇ汚してることに自覚的だよな」 って感じがする
もの。このへんとか小さな点だけどやっぱ宮崎駿カントクも進歩してるって思
った。
「王立宇宙軍」でのオネアミス王国宇宙軍を見ていると、確かにメンバーには
嫌な奴もいる。口の悪いのもいれば「こいつやる気あんのか」って奴もいる。し
かし、そーいう連中がお互いブツクサ言い合い、また外の世間からはバカにさ
れつつ、一緒に男ばっかで寝泊まりとかしながら「ロケット作り」に励む姿はす
っげーリアルだし、少なくとも自分は、嘘臭くなく好感が持てると思ってる。
もっとも、主人公のシロツグが目立ててない、って欠点はあるが、何の事業だ
って少数の英雄だけで成り立つ物はない。無数の人々の積み重ねで世の中は回
転しているのだよ。アニメという表現でそうした点をきちんと描いて見せた点
でも「王立宇宙軍」でのオネアミス王国宇宙軍の描き方は十分注目に値する。
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