※「エヴァ」から「王立宇宙軍」に入る人のために

 もう2ヶ月以上も更新をさぼってたんだが、その間に山賀博之監督が急に多 方面で発言しだしたり、東京国際ファンンタスティック映画祭での 「王立宇宙 軍」リバイバル上映決定やら「王立宇宙軍」ビデオCD化(11月21日発売だそーで す)やら、この不遇の名作、最近いきなり脚光を浴びるようになってきている。 いやはや驚くべき展開だね。そーいや以前から予告だけはしていた 「山賀カン トク発言録」 もさっさと作らにゃあるまいとも思ってたんだが、今回は取り急 ぎ、「エヴァ」から「王立宇宙軍」に入る人のためのフォローを書いておきたくな った。  「激突対談 王立宇宙軍トーク」のコーナーで協力してくれた、畏友・河田拓 也氏は、自分と同様、87年の「王立宇宙軍」以来、更に言ってしまえばそれ以前 のゼネラルプロダクツ時代、DAICON FILM時代からGAINAXと いう集団には着目してた世代だ (ついでに言えば、我々にとって岡田斗司夫と 言えば「オタキング」ではなく、今は無き「アニメック」誌上で怪傑の〜てんき武 田氏と「ゼネプロ講座」連載してた岡田斗司夫、である……ってこんなこと書い て何人が分かるんだろう?)。 自分も河田氏も80年代の中高生当時には結構ア ニメとか観てた方なんだが、90年代に入ってから好みに合う作品もなくて、そ っち方面とはご無沙汰になってたが、94年暮れ頃 「なんか今度ガイナックスが 本格的に力を入れたのをTVシリーズでやるらしい」と知り、「エヴァンゲリオ ン」 には放送開始のかなり以前から着目してた、というクチである。自分も河 田氏も、「ガイナックスが本腰を入れて作る作品」と聞いて当然のように 「王立 宇宙軍」 を思い浮かべた……現在20代後半から30代前半の、もはやオールドな 世代に入りつつあるオタクには実はこーいう人けっこういるんじゃないか?  さて、この河田氏の先輩格に当たるライターで、どっちかって言うとアニメ とかにはおたく的には関心はなかったんだが、こと「エヴァンゲリオン」がやた ら世間で騒がれるんで試しに観たところ大いにハマってしまった、という人が 居る。で、河田氏がこの人物に「そんならコレを観て欲しい」と自信たっぷりで 「王立宇宙軍」を勧めてみたところ、あいにくとこの某氏、「王立宇宙軍」にはハ マれなかったという……。自分や河田氏は「エヴァンゲリオン」の前半の展開を 観ていて「なんだ『王立』より後退してるじゃないか」とか 「やっぱ庵野じゃ山 賀には劣るか」なんてこと言ってた人間なのだが(映画のエヴァ完結篇は、もう 「王立宇宙軍」とは別の次元に突き抜けてしまっていて、これはこれで凄い傑作 だとは思うけどね)、どうも我々とは逆に逆に「エヴァ」にはハマれても「王立宇 宙軍」 には入れない、っていう人も結構いるらしい。それともそっちの方が多 数派なのか? 哀しいねぇ……。  まぁ、ここで 「『王立宇宙軍』の良さを分からずしてエヴァンゲリオンとガ イナックスを語るんじゃねぇよ」 なんて言ってたら、それこそ60、70年代懐古 全共闘オヤジとまるで同じだ。その愚は避けたい。しかし、やっぱ、もはやオ ールドな世代のおたくとしちゃ、「エヴァンゲリオン」から入った今の若い人た ちにも、また本来アニメには関心はないんだが「エヴァ」にはハマってしまった、 ってな人たちにもこの作品を観て欲しい、って思いはある。っつーわけで書い てみたのが以下の概説です。なお、例によってこれはガイナックス、バンダイ エモーション、東宝東和と言った周辺関係者自身の見解とは一切関係のない本 ページ作者の随分勝手な主観と知ったかぶりなんで、あんまり本気にしない方 がいい部分も多いかも知れません(おいおい……) ●GAINAXと「王立宇宙軍」のそもそもの成り立ち  「王立宇宙軍 オネアミスの翼」が公開されたのは1987年、いわゆる 「80年安 保」 の副産物としての最初の「アニメ・ブーム」が既に終息期に入り、おたく産 業界が一つの転回点を迎えようとしてた時期だ。軽く歴史の復讐もとい復習を しとくと、70年代の末期に「宇宙戦艦ヤマト」のブームがあって、ここで初めて 「いい歳をしてアニメに夢中になる」若者ってのが一団の層として出現し、最初 のアニメ雑誌だった「アニメージュ」やら「OUT」やら「アニメック」やらが創刊 された。それから80年代初頭に「ガンダム」のブームってのがあって、まぁ何と いうか、従来「所詮子供のオモチャ」でしかなかったアニメで、明らかに子供で はなく青年層を意識した深い人間ドラマとかが描かれる、ってな前例が確立さ れた。  この当時は、アニメファンってのはまだ社会的には前例のない (当時の大人 の常識からすれば異様な) 存在だっただけに、かなり形見は狭かった。しかし それだけに「所詮子供のオモチャ」でしかなかったアニメとかの中からも大人の 鑑賞に堪えうる表現、優れたドラマが作り出され得るんだ、ってなことへのこ だわりってのも強くあったわけで、当時の初期おたくの間には、なんか 「いい 歳をしてアニメに夢中になる」 ってのが、既成の文化秩序の価値観を覆す何か 新しいことである、っていうような勘違い(?)さえあった。笑ってはいけない、 本当に今して思えば勘違いなんだけど、歴史ってものはそーいう勘違いの積み 重ねで発展してきた側面だって実際にあるんだから。詳しいことはこっちでも 読んでくれ。  ……しかし、最初の「ガンダム」をとっかかりにした80年代初頭の 「アニブー ム」 で多くの「アニメを観る客」ってのが一団の層として生まれ、OVAとかそ ーいうマニア向けの作品とかだけで産業的には成り立つ、ってな状況が確立さ れると、勢いアニメ作品の多くは「かっこいいメカと可愛い美少女キャラ」って 路線ばっかになり、「所詮子供のオモチャ」でしかなかったアニメとかの中から も大人の鑑賞に堪えうる表現、優れたドラマを、って辺りは考えなくても良い ことになってった。これが80年代中期の状況だ。だが、これは当然 「アニメを 観る客」 の閉鎖化、作品の没個性化、引いては市場と業界の先細りを招く。果 たしてアニメは「かっこいいメカと可愛い美少女キャラ」だけでいいのか?  そんな折、最初の「ガンダム」で一山儲けてオリジナルの映像事業に向けての 野心を膨らませていたバンダイ・エモーションの資本と、当時最高の海千山千 のドオタク集団にして、既にセミプロの映像集団としてもかなりの力量を身に つけていたゼネラルプロダクツ(DAICON FILM)が手を結ぶことによ って、映画「王立宇宙軍 オネアミスの翼」は企画され、この製作のために一夜 にして研究組織ゲヒルンは特務機関ネルフに……じゃねぇ、アマチュア映像集 団ダイコン・フィルムは株式会社ガイナックスに姿を変えた。  「王立宇宙軍 オネアミスの翼」って作品は、まさに先に述べたよーなコンセ プト、「かっこいいメカと可愛い美少女キャラ」だけのアニメを脱することを目 指して作られた試みだったわけだ。しかし、それを乗り越える作品を作り出す ためにこそ、そーいう作品の快楽を味わい尽くしツボを抑えきった最高のオタ ク集団が必要とされたという次第なわけだ。  この映画の生まれってのは本当に時代の偶然みたいなもんで、もう2年早く ても2年遅くても、バンダイがこんな映画の企画に8億円も投資してくれるな んてことはなかったんじゃないだろうか。この87年って時期は、80年代初頭の 最初の「ガンダム」のブームで生まれたアニメファン第一世代が高年齢化し、次 なる路線は何かと試行錯誤がなされた時期で、そんでやたら高度でマニアック な作品が作られたりしてる。同じバンダイの資本で押井守カントクの 「紅い眼 鏡」 とか、士郎正宗原作の「ブラックマジック M66」とかが作られたのも同じ 87年。今にして思えばすげー実験的投資だよな、としか思えない(笑)。  かくして生まれた「王立宇宙軍 オネアミスの翼」ってのは、すげー背伸びし た作品だった。まぁ「えば」がまだくっさい思春期の心理を引きずってるのに対 し(まぁ、そこがイイとこでもあり、観客の共感をつかんだわけでもあるけど)、 「王立」を作った当時はスタッフのほとんどはまだ20代前半だったってのに、こ の「王立宇宙軍」はオタク受けくさい要素を排して全編大人のドラマとして作っ てるんだもんね。でも、俺なんかはそおうした分不相応な背伸びも含めてこの 作品を高く評価したいって思ってる。以前、翻訳者のガース柳下(柳下毅一郎) 氏が、それこそ「王立宇宙軍」と同じく宇宙開発を題材にした映画の「アポロ13」 に触れて、60年代当時のテクノロジーで「ロケットを飛ばす」って事は人類の文 明にとってすげー背伸びした行為で、「それが何になるの?」って突っ込まれた らおしまいな徒労に近い行為でもあるんだけど、そーいうことを一生懸命にや る、ってな背伸びや勘違いも必要なんだ……とかなんとかどっかに書いてたん だけど、そーいうことなんだよね。  なんか、半端にインテリぶったおたくとかで 「アニメとかで下手に大人ぶっ て真面目な話とかやるのは間違ってる。本来は子供の観る物なんだから単純な 勧善懲悪物か、マニア受けの『かっこいいメカと可愛い美少女キャラ』でいい じゃないか」とかいう人っているけど、自分とかはむしろそーいう人こそ「今さ ら」 って気がすんだよね。まぁそういう意見も一方じゃ正論なわけで、やっぱ ある程度見た目の快楽も盛り込んでなきゃ作品は面白くないし客も飛びつかな い。でも、本当にそんだけでいい、ってのは80年代止まりの思想じゃないかと しか思えないんだが……。  ともあれ、そんな感じで時代の勘違いと背伸びを背景に含みつつ(失礼!)世 に出た「王立宇宙軍 オネアミスの翼」は、不遇にして興行的には大きな成功を 収めることには失敗する。ま、そんな従来の「アニメの客」が作品に期待する要 素を全部排した作品じゃツラいもんねぇ。そんで、負債の回収のためもあって バンダイ共々路線を 180度変更してOVA「トップをねらえ」を製作、といった 辺りの事情は「スキゾエヴァンゲリオン」「パラノエヴァンゲリオン」で読んで下 さい。重要なのは、そこでガイナックスに危ない橋を渡らせた山賀博之監督が、 岡田斗司夫初代社長の去った後、社内スタッフの支持のもとに取締役に就任し てる、ってこと。ガイナックス内部の人間は(当然庵野カントクも)山賀カント クを支持してる、つまり彼ら、自分らの路線が間違ってると思ってないわけだ。 で、「エヴァンゲリオン」もまた、ある部分じゃ「王立宇宙軍」の路線を引き継ぐ 作品として出てきた側面を持っている。 ●「エヴァンゲリオン」と「王立宇宙軍」の本質的違い  そんな具合で「エヴァンゲリオン」と「王立宇宙軍」をつなぐ話に持っていきた いんだけど、まぁ確かに無理にこじつけりゃ「ここんとこが同じ」とか言えると こは多いけど、本当はそれはあんまりやりたくない。っつーのは、両者は本来 別の作品だし(当然だ)、山賀カントクと庵野カントクの資質の違い、ってのも ある。両者の比較はかなり難しい、というより作品の方向性や表現技法が全く 別物だから比較はほとんど無理だ。「王立宇宙軍」の方が優れていると思える部 分も多いが「エヴァンゲリオン」の方が優れていると思える部分も多い……。  「エヴァンゲリオン」観て、次に 「なんかこれ作った会社の最初の作品だそう だから」 っていって「王立宇宙軍」を観ようとする人、ってのが「王立宇宙軍」に 何を期待してるのかはその人それぞれなんだろうけど、まぁ、あらかじめ 「こ ーいうは期待してもないよ」と言えるのが「気持ちよく被害者気分に浸れる快楽」 って部分かな(くーっ、相変わらず性格悪ぅ、俺)。意地悪く言わせてもらうと 「エヴァンゲリオン」が同時代的に大ヒットした背景には、そーいう 「ボクは不 幸で可哀相な被害者」 って気分に浸らせてくれるスキがあった点は否めないだ ろう。もっとも、最後の映画じゃ、そーいうとこに浸ってた観客を見事にドツ ボに突き落とすっていう凶悪なことをやってくれてたけどね (この点に関して は「王立宇宙軍」を超えたと思う)。  悪いケド「王立宇宙軍」にはあんまりそーいうのは無いよ。大抵の不幸は自業 自得なんだ、世の中ダメなやつはダメ、ってことが意地悪く率直に描かれてる 作品だからね、これは。いや 「エヴァンゲリオン」だって最終的には、「ボクは 悪くない」 とほざく不幸なシンジ君が、そんで安易に同情してもらったり共感 してもらえるなんて幸せな話を拒否してるんだから同じなんだけど。  まぁ、基本的に、主人公が物語はじめじゃはっきりした意志を持たないいー 加減なヤツで、それが周囲の大人の無茶に巻き込まれる形で物語が進行し、主 人公は自分の意志とカンケーなく周囲から作られる立場とかによって決断を迫 られ(一度逃げたりする、ってとこも同じ)、そんで自己を確立させて成長して 行く(といっても明確なオチがあるわけでなく、曖昧な終わり方とも言える)… …といった全体的な構造、「現実」がいかにしょーもないかをしつこく描いた上 でその「現実」を肯定しようとする物語、ってとこはほとんど同じだ。その辺、 少し詳しく見ていこう。


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