[ NO.1051 ] [ 98/05/14 05:10:04 ]  [ 投稿者:葦原骸吉 ]
[ URL_ADDR:http://www.axcx.com/~sato/ea.htm ]
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参考:大蟻喰い女史にこんなメイルを出した2(長文)

もう二週間ばかりも前になるが、佐藤亜紀女史にこのようなメイルを出した。
佐藤女史からは、先方のサイトに掲載されるとの返答を頂いたが、なんかお
忙しいらしく更新もされていないので、先に自分で公開してしまおう。

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拝復

佐藤亜紀 様

 先の二回のメイルでは、貴方が赤木氏の人物を知らぬゆえにその発言を全
部真に受けて、当方が何を言おうと「へっ、大月の仲間が見苦しい言い訳し
てら」としか思って貰えないかも知れない、という予断もありましたので、
変に偽悪的な言い方になってしまい、申しわけありませんでした。

「文句のある奴は前に出ろ 第26回」についての当方の意見を、とのことで
すが、当方は「歴史教科書をつくる会」の活動には当面ほとんど興味はな
く、彼らの思想、行動自体にはコメントしようにも知識が欠けすぎていて、
その資格があるとも思えませんし、そう何にでもしたり顔で付け焼き刃的な
意見を持とうとすることが正しいとも思えません。ゆえに当方のホームペー
ジでは直接の意見表明は控えているということは、前回のメイルでもお伝え
した通りです。

 そこで、漠然とした基本姿勢のようなことだけを述べさせて頂きます。

 まず、当方の掲示板での大月氏の発言は――誰しも現実には無国籍民では
あり得ず、いきなり国家と言わずとも当然何らかの場に足を着けているのだ
からそれは引き受けるべきであり、それを偽善と突っ込んで責任放棄するば
かりでなく(今日は場に責任を負わず突っ込むだけの方が遙かに楽な世
だ)、偽善を実践によって善に叩き上げることをせねば何も始まるまい――
という一般論的意見としては、穏当な発言とも思っております。

 この大月氏の書き込みへの佐藤女史による反論、ことに

>偽善はいいんですよ。大いに役に立つから。でも偽善の理想的な流儀を行
っているのはむしろお嫌いな土下座史観の方なんじゃないのかしらん。

との御意見など、一面では実にもっともだと思いますが、土下座史観で思考
停止して一方的に謝るだけということでは、自分が属している場を背負う責
任意識が無いと思います。それに一般論として「被害者の正義」を振り回す
相手に一生頭が上がらんというのはたまりません。だったら「その通り、俺
は見方によっちゃひどいこともやった、指摘される通りかも知れない。しか
しそれにはその時の内的必然性があってやったんだし、その時には必要だと
思って(或いはやむを得ず)やったんだ」と潔く表明するべきかと思うので
す。無論、あれは正義の戦争だった俺達は何一つ悪くないと居直れと言いう
気は毛頭寸分ありません。

 確か貴方はどこの国のナショナリズムも皆愚かしいという意味のことを述
べられたと思います、これはひとまず正論だとも思います。貴方の主論調は
そうした国家や場に寄りかからないで生きられる強い個(単独者)であれ、
というこのなのかとも思われますが、しかし無国籍人のような態度が取れる
のは余程少数の才ある人間だけです。ほとんどの人間はそんなに上等なもん
じゃありません。だから自分が属している場についての物語が必要になるの
だと思います。無論、嘘臭い「自分ホメ」ばっかの物語でも困りますが、か
といって「俺はダメだ、俺は悪いヤツだ」としか言わないのも、逆の意味で
そう言うことによって責任逃れしているのと同じことだと思うのです。

 大月氏が妻子を養ってるか云々と言ったのも、ともすれば皆自分はどこに
も属さない公正中立のような姿勢から物を言うが、実際には人間は弱く不完
全な生き物である以上単独では生きられず、必ず何らかの場に属しそれを背
負うということを自覚する所から始めねば、ということとであり、敢えて乱
暴に言うと「親に喰わしてもらって思想哲学談義に乗じられる高等遊民のく
せに下部構造への自覚もないまま親の悪口言うな」ということだと思いま
す。嫌な親、生まれたくて生まれたんでもないしょーもない家でも、現にそ
こに喰わしてもらってる以上は、自分もその一員であり、そのことは認めて
それをマシなものにしようと考える、ということではないでしょうか。

 大月氏の「つくる会」での態度につきましては、当方では判断できるだけ
の材料を持たないのでなんともコメントのしようがないのですが、敢えて
「心意気云々」という心情的でアバウトな言動についてだけ言えば、あくま
で私見ですが、確かに軽はずみというか、おっちょこちょいでちょとなぁ…
…と感じるところもあります。しかしそれは恐らく、確かに存在している
「国家」という枠組に無自覚に寄りかかっていながら、そのことを一方的に
「悪」と見なしてタブー視したまま公正中立を装うような無責任の横行に苛
立ち、その前提を自覚して議論をオープンにすることぐらいは必要だろう…
…ぐらいの気持ちで、イデオロギー的に一元的な運動でないと思ったからこ
その参加だったと思います。

 とはいえ、こういった運動の常、呉越同舟の寄り合い所帯ですから確かに
ファナティックな言動も出てくるでしょう。大月氏はその関係調整役に追わ
れているというか、そうでなくてもカッコにくくられがちな問題提起をオー
プンに媒介する苦しい立場からの「心意気」云々の発言と、当方は理解して
います。

 妙な喩えですが、当方はこれを「ああ、大月さんは、いずれにせよこうい
う論議の出てくるのは避けられないことで、だったらそれが極左トロツキズ
ムの暴走にならないよう穏健なところに収めようと内部から働きかける社会
民主主義者のような役回りをやろうとしてるんじゃないか」と捉えていま
す。それははっきり言って格好悪く損な役回りです、外部の対立党派からも
叩かれ、内部の急進派にも突き上げられる役ですから。しかし当方は、だか
らこそそういう大月氏の姿勢は、敢えて火中の栗を拾うような責任ある誠実
な態度と思いたいです。

 なお、当方個人の国家主義や民族主義への見解は、あくまで無学な素人の
印象批評レベルですが、よろしければ

http://www.axcx.com/~sato/NR1.htm

をお読みになって頂くとわかりやすいと思います。当方は、冷戦体制崩壊
後、無条件に「社会主義や共産主義は間違いだった」となったはいいが、そ
こで今度は考え無しに国家主義や民族主義を標榜することが実感を離れたフ
ァッションと化すことにも警戒を抱いている者です。

 当方は、以前に貴方のお書きになられた『バルタザールの遍歴』『戦争の
法』の二冊を読み、没落貴族の主人公の視点から凡百の通俗作家なら耽美な
格好いい物として描くナチスをむしろ下品な田舎者の成り上がり勢力と描い
たて見せたことや、パルチザン戦争をイデオロギーと無縁のどこの田舎にも
ある単なる地域共同体内の俗な勢力争いとして描いた視点に、この国では希
少な優れたセンスを感じました。しかし同時に「あ、でも、この人俺とは全
然世界が違うわ。縁ないな」と痛感しました。これは別段に全くけちをつけ
ているのではありません、純粋に好みの問題だから仕方ないと思います。

 確かにイデオロギーなんてもんは、上下左右を問わず本来的にいかがわし
くうさん臭くて野蛮なくだらんものだと思います。特に国家主義や民族主義
は本来「イケてない」人たちのためのものだと思います(これについては

http://www.axcx.com/~sato/yokoku3.htm

に書いた「なぜ日教組は落ちこぼれを救えず、暴走族は日の丸が好きか?」
という問題もお読み頂ければなお大変ありがたいです)。

 しかし、だからこそそのいかがわしさやうさん臭さに魅力を見出し惹きつ
けられる人間も多く、人間バカなんだからそういうくだらん阿片も必要(俺
自身も愚民だから、という自覚も込めて)と、その歪んだ魅力の陶酔と危う
さしょーもなさの両方を繰り込んみつつ、それをうまく善用できないかと考
えたい、という次第。

 ただし、これは本当に正否というより好みの問題なのですが。

 以上が当方の私見で、これ以上に歴史教科書問題及び「つくる会」につい
ての論争をご所望であれば、大月氏自身か他の会員の方に直接申し込んで頂
くよりないでしょう。



 なお、赤木氏についてですが、確かに文章を見て独自に判断して頂くより
仕方がないのでしょうが、僭越ながら、短い文面なら字面の体裁ぐらいなん
とでもなる、相当危ういコミュニケーションであるという程度の自覚はもう
少しお持ちになられた方がよろしいのではないかと感じました。

 赤木氏はこれまでにも何度も、貴方の文章のみならず「つくる会」に批判
的な文章をあちこちから無断で引用してきて匿名あるいは元の執筆者の名を
かたって当方の掲示板に投稿するという行為を行っており(余程「つくる
会」を敵視しているらしいが、そのくせ自分自身の意見は何も言わない)、
無断引用された文章の作者からの苦情も当方に寄せられおり、匿名でやって
いたのが最近になって赤木氏の行動と露見して突き上げを受けているぐらい
です。

 貴方がインターネットを公共の場と言われ、公人の大月氏の立場というこ
とを説かれたことにつきましては、確かに正論であると思います。ただ、事
実として多くの場合、インターネットの掲示板の多くが内輪の世間話、井戸
端会議の場であり(この点、確かにそこでの大月氏の発言姿勢は無防備だっ
たとも思いますが、そこが人の好さでもあると以前から考えています)、赤
木氏のようなストーカー気質の人間の出入りも自由な無法地帯でもあること
ぐらいは自覚されていることと思いますが、そのたれ込みを額面通りに真に
受けたような今回の貴方の態度は、下手をするとむしろ貴方の株を下げかね
ないものと危惧しております。

 実は、赤木氏はネット外でも多くのいわゆるサブカル文化人のストーカー
として悪名高い人物です。彼は要するに自分を支える論理も生活も自信も持
たないまま、批判対象に甘えつつケンカを売るという「構って欲しい淋しい
奴」だと当方は見なしています。ミもフタもなく申しますと、彼に付き合っ
てうっかり同類の仲間と勝手に勘違いされてつきまとわれたら大変であるか
らお気をつけ下さい、ということです。これは余計なお節介ながら、半ば真
剣に御忠告させて頂きます。

 うまくまとめるのがへたくそなので、やたら長々となりまして申しわけあ
りません。

 それでは。


敬具

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というわけで、この機会に本音暴露という感じですが気を悪くしないで下さい
(↑さぁ、誰に向かって言ってるのでしょうか?)


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