Movie Review Brandnew

「時をかける少女」’06日
監督 細田守
脚本 奥寺佐渡子
アニメーション制作 マッドハウス
キャラクターデザイン 貞本義行
作画監督 青山浩行、久保田誓、石浜真史
美術監督 山本二三
音楽 吉田潔
主題歌 奥華子
評価 ★★★★☆

<内容>
高校2年生の紺野真琴は、男友達の千昭、功介と連んで野球に興じたりと、毎日を楽しくおかしく過ごしていた。そんな彼女はひょんなことから時間を跳躍し過去に飛ぶことが出来る能力(タイムリープ)を得る。彼女は妹に食べられてしまったプリンを食べるため、酷い点数だったテストで満点を取るため、カラオケで時間を気にすることなく歌うためなど、慎ましい欲望の赴くまま能力を使いたおしていく。しかし、功介が後輩に告白されたことで歯車が徐々に狂い始めていくのだった…。

<関連情報>
今作は筒井康隆原作「時をかける少女」から20年後という設定の続編的内容を持った作品となります。前作のヒロイン芳山和子も主人公の叔母さんという設定で登場し、真琴に様々な助言を与えます(愛称である魔女おばさんは、細田が監督を行った「おジャ魔女どれみドッカ~ン!」第40話「どれみと魔女をやめた魔女」に登場した魔女を彷彿とさせます。ちなみにこの魔女のCVは原田知世)。
監督の細田守は東映出身のアニメーター、演出家です。監督の来歴などは「ONE PIECE オマツリ男爵と秘密の島」のレビューの方に書いてありますので、そちらを参照して下さい。

<感想> ※ ネタバレを含むので、本作を未見の人は注意して下さい。
主人公の真琴はとにかく駆ける。学校に遅れないため、美味しい物を食べるため、友達の恋を応援するため、 そして大好きな人に会うために…。

物語は基本的に7月13日から15日にかけて展開します。そしてその期間内、主人公の真琴は何度も時間を遡上しては人生をやり直します。それは作中で真琴の口からも語られるようにゲームをリセットする感覚。たいしたことでも無いのに力を使ってしまいます。それはとても無邪気な使い方で、物語を明るく楽しく牽引してく原動力となっています。

タイムリープという要素を抜くと、物語は至極シンプルな三角関係の恋愛劇となります。安定した関係を気づいていた三人に第三者が絡んでくることで違和が生じていくというものです。ここに時を遡ることでやり直しが効くという要素が入ることにより物語りは変わっていきます。同じシーンが何度も出てくることになるわけですが、微妙な差異を加えたり、ロケーションは同じでもシチュエーションは全く異なるものにしたりと。そして、ここで細田監督の演出が冴えます。例えば、カラオケのシーンでは同じ構図のまま、微妙な差異(注文する飲み物を換えたり)を加えておもしろみを出します。三者の関係の分岐点となるシーンは「どれみと魔女をやめた魔女」の回と同じようにY字路を出すことで強調してみたり。極めつけは川の土手でのシーンで、中盤に千昭に告白されるシークエンスと、物語ラスト近くでの別れのシークエンス。真逆に近いような意味合いのシークエンスを同じロケーションで見せることで、別れの切なさを巧みに強調します。加えてこの別れのシークエンスですは、ダメ押しのように真琴の前に自転車を二人乗りする男女を登場させます。真琴の前にありえたかも知れない二人の未来の象徴のように登場させるのです。ここで真琴に号泣させることで、如何に千昭という少年の存在が大きかったのかと彼女の中でも分からせます。嫌みなほど巧い見せ方です(おかげで私まで泣かされました)。

その他にも、言葉に依らず、シーンの構図やキャラクターの立ち位置、画面中にある物で状況を説明したりしています。タイムリープの契機となるガジェットなどは胡桃の形をしているのですが、これは胡桃が堅いからに覆われていることから「秘められた物=秘密」や英知の実といった意味が込められているのかと思います。この辺は作品を何度も見返すことで分かってくることと思います。そして、何度も繰り返して見ることが出来るほど、この作品は良くできています。これまでの細田作品と異なり、制作費以外での縛りはほとんど無かったのでしょう。タイアップにより下手な芸能人を声優に迎えていませんし、スポンサーによる主題歌のごり押しもありません。奥華子による主題歌「ガーネット」と挿入歌「変わらないもの」などは、作中人物の心情(前者が真琴で後者が千昭)を歌い上げており、作品世界に見事にはまりこんでいます。もちろん脚本の制作に関しても全面参加しています。兎に角、細田監督の意志が細部にまで行き渡った映画です。細田監督の総決算とでもいうべき作品ともいえます。ここまで映画作品をコントロールする機会など滅多にあるものではありません。そういった意味ではとても奇跡的な作品とも言えます。

べた褒めですが、気になる箇所がないわけでもありません。主要な登場人物は高校生なのですが、彼等の恋愛行動は今の現役高校生のメンタリティーとしてどうなの?とか、現代を舞台にしているのに、出てくるオブジェのそこかしこに70年代末から80年代中期ぐらいまでのものとしか思えないようなものが数多くあったり、タイムリープ関連のイベントにはちょっと首をかしげる箇所もいくつかあります。とはいえ、これは作品の瑕疵になるようなものでもありません。登場人物の恋愛模様は前作や大林版の映画やNHK制作の「タイムトラベラー」などの作品群とも通底するような初々しさで、この辺を見ているそうにはたまらなかったりします。

青春回顧のアニメと思ってみるのも良いですが、作品自体の完成度が高いので、普通に万人に勧められる映画ではないかと思います。個人的にはここ数年で一番面白いと思った映画です。

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