Movie Review ハ

「バイオハザード」 ’02日米独
原題 Resident Evil
監督・脚本 ポール・アンダーソン
撮影 デビッド・ジョンソン
出演 ミラ・ジョヴォヴィッチ、ミシェル・ロドリゲス、エリック・メビウス
評価 ★★★

<内容>
アリスは人気のない洋館で目を覚ました。辺りを見回しても見覚えがない場所。記憶は失われていた。なぜ私はここにいるのだろう?と思い始めた矢先、館を武装した特殊部隊に強襲された。保護されるのだが、彼らと一緒に館の地下にある研究室に赴くことになった。そしてその先には恐ろしい事実が待っているのだった…。

<DATA>
世界的にヒットを飛ばしたCAPCOM制作のゲーム、「バイオハザード」の映像化作品。元々、CM制作にジョージ・A・ロメロ監督を使うなど、作品の映像化には力を入れていましたが、今回は本格的に映画として作成。物語はバイオハザード1以前のストーリーで、ゾンビ発生の契機を描いています。

<感想>
ゲームの映像化において大事なことは何かと考えたとき、それは作品世界を拡張・補完するものを作り上げることだと思っています。しかし、タイトルとキャラクターの大まかな設定だけ同じで、あとはゲームもしたことがないような脚本家や監督達が作りあげたような作品がこの種の映画の大半を占めているのが実情です(近作ではトゥームレイダースのような良作もありますが)。これらの作品群はオリジナルの世界観を拡張するどころか、台無しにするのが常でもあり、ゲームのファン達はこのような映画が公開される度に失望してきたものです。しかし、このバイオハザードという作品はなかなか良くできたものに仕上がっています。

監督のポール・アンダーソンはバイオハザードシリーズをやり込み、脚本を練りました。まず物語はゲームのタイトルにもなっているゾンビ発生の契機となった「バイオハザード(生物災害)」を事件を描くことにしました。そして舞台はバイオハザード1の舞台ともなった洋館から始めています。展開はゾンビ映画のお約束ごとをしっかりと守りつつ、モダンなスピード感に溢れるものとしました。ロメロ監督の作品に対するオマージュ的なシークエンスも作品中にいくつも挿入しています。

この、ゲームファンにも、ゾンビ映画ファンの期待にも応えるような姿勢により、作品はゲームの映像化を行った作品としても、ゾンビ映画としても評価出来るものに仕上がっています。見終えた後は続けてゲームもやりたくなってしまうなど、マーケッティング的に作成サイドの思う壺にもなってしまいました。

「陪審員」 ’96米
原題 THE JUROR
監督 ブライアン・ギブソン
脚本 テッド・タリー
評価 ★★

<内容>
マフィア関連の殺人事件の陪審員をすることになったアニーは、息子と二人暮らしのアーティスト。そして、彼女の作品を買いもとめ近づいてくる謎の男。魅力溢れる男に惹かれた彼女は、家に招待する。しかし、かれはマフィアに雇われた殺し屋だった。そして男は、法定で無罪を主張しなければ、息子を殺すと彼女を脅迫し始めた・・・。

<感想>
あらすじを読み、本編を見ているうちに、どこかで見た気がするのだが?という既知感を覚えた。そう、「脅迫」という映画にそっくり。そして、「陪審員」が作られたのが96年で「脅迫」は95年。パクリか?疑惑を抱きつつ鑑賞終了。
で、結果。
設定だけはパクったのかも知れないが、結果としては別の映画。そして、私は「脅迫」の方が映画として上に感じました。「脅迫」では有罪と思われていた被告を主人公は「12人の怒れる男たち」のような感じで逆転させました。しかし、「陪審員」での主人公は「被告に対する完璧な証拠が無いので、いずれ被告は刑務所を出てくる。そうしたら私達の命が狙われるのよ。」と同じ陪審員を脅すという方法を・・・。これだけで、どちらの脚本が上か知れるというもの。ということで、「脅迫」を見ましょう。役者も元ヴァル・キルマー夫人のジョアンヌ・キルマー、ウイリアム・ハート、アーマンド・アサンテ、ガブリエル・バーンと豪華ですから。

「バーチュオンシティ」 ’96米
原題 VIRTUOSITY
監督 ブレッド・レオナード
脚本 エリック・バーント
出演 デンゼル・ワシントン、ラッセル・クロウ
評価 ★★

<内容>
仮想空間にて警察官の訓練用に創られた犯罪者人格シドがナノテクマシンを用いたロボットとして現れた。破壊されても、ガラス分子を吸収することにより再生してしまう相手に対し、警察は元警官のパーカーを使い追いつめることにした。

<感想>
人工知能にナノテクマシンが存在する世の中でも、モニターはCRT・・・。せめて液晶とか使えよ!と思わず突っ込みたくなる、テクノロジーの倒錯。
内容に関しては何も言いません(笑)デンゼル・ワシントンとラッセル・クロウによるノン・ストップのアクションをお楽しみ下さい。

「初恋のきた道」 ’2000米中合作
原題 我的父親母親(THE ROAD HOME)
監督 チャン・イーモウ
脚本 パオ・シー
音楽 サン・パオ
撮影 ホウ・ヨン
出演 チャン・ツィイー、スン・ホンレイ、チャオ・ユエリン、チョン・ハオ
評価 ★★★★

<内容>
父の訃報を聞いたルオは、生まれ育った村へと帰ってきた。実家へ戻ると母親の姿がない。訪ねてきた村長に尋ねると、父の働いていた学校の前から一歩も動かずに座り込んでいるという。ルオは急ぎ母の元に赴き、家に戻るよう諭す。
息子と共に帰宅した母は、村からは遠く離れた町の病院に安置されている父の遺体を、村まで人の手で担いで運ぶようルオに頼む。担いで帰ってあげないと魂が家路を迷うという迷信が村にはあるのだ。そして、その際の棺にかける白い布を機織り機で織ると言い出す。今の村には若い者がおらず、外は極寒の世界である。ルオはそれは無茶な話しだと、母を説得しようと試みるが、彼女は頑として譲らない。
母が機織り機で布を織る音を聞きながら、ルオは迷っていた。その時、ふと箪笥の上に目をやると、若き日の父と母の写真があった。そして、村では語りぐさとなっている母と父の恋愛物語を思い返すのだった・・・。

<感想>
至極単純な話しである。筋立てもシンプルなら、登場人物達のとる行動も明快である。台詞の数も極めて少ない。しかし、この作品からは極めて芳醇なイメージが立ち上っている。

母の想い、父の想い、そして息子の想い。言葉で語られることは無いけれど、彼らの想いがスクリーンの向こう側から伝わってくる。その流れ来るものは、受け取る者の世代や性別によって異なるかもしれない。しかし、どれも純粋で力強い。

映画のラストシークエンス、彼らの想いが一つに交錯する。この瞬間、僕の心は映画と共鳴し、感情は奔流のように溢れかえった。そして、何とも幸せな気持ちに満たされた。

この映画は言葉でアレコレ飾り立てない方が良いだろう。是非鑑賞し、その素晴らしい映像を記憶の中に焼き付けて欲しい。その記憶は儚いながらもしっかりとした光りで、いつまでも輝き続けるだろう。

「バベットの晩餐会」 ’87デンマーク
原題 BABETTE'S FEAST
監督・脚本 ガブリエル・アクセル
原作 アイザック・ディネーセン
音楽 ペア・ヌアゴー
撮影 ヘニング・クリスチャンセン
出演 ステファーヌ・オードラン、ボディル・キェア、ビアギッテ・フェザースピール
評価 ★★★★☆

長年愛し続けた映画が、低価格で再発売されました。僕の生涯のベスト10映画には必ずランクインする作品です。ということで、購入を記念してのレビューです。これを読んで興味を持たれた方は、是非、御覧になって下さい。何度見返しても心が暖かくなり、見る前より少しは人に優しく接するようになれるといった映画です。

<内容>
舞台はノルウェーの小さな漁村。牧師の娘である年老いた姉妹を中心に、同じく年老いた者たちはコミューンを形成し、静かに暮らしていました。
バベットは、姉妹の家に住み込むメイドです。嵐の夜に一通の手紙を携えて姉妹の元を訪れ、以後生活を共にするようになりました。
ある日、バベットは宝くじを当てました。予想外の幸運です。そこで彼女は、手に入れた大金を使い、牧師の生誕100年を祝う晩餐会の為の料理を作ることにしました。質素な料理も嫌いではありませんが、昔フランスの作っていたような豪華な料理をもう1度だけ作ってみたかったからです。こうして、とても素晴らしい晩餐会は始まるのでした・・・。

<感想>
二人の姉妹が若かりし頃の美しい記憶を交え、物語は実に淡々と進んでいきます。老人達ばかりのコミューンにはこれといった楽しみもなく、毎日が退屈です。そんな息詰まるような生活を続けているため、つい心もささくれ立ってしまい、余計な喧嘩の一つもしてしまいます。しかし、バベットのとっても豪華な晩餐会の料理が、そんな老人達の心を癒していきます。先ほどまでいがみ合っていたはずの老人達は、料理が終わり姉妹の家を出た後には、とても幸せで充たされた心持ちです。そして、誰からともなく手を取り合い、輪になりました。何故かは解りません。そうすることで、もっと幸せになれるような気になったからでしょうか?老人達の表情はとても柔和で、それぞれとても美しく輝いています。そしてゆっくりとスタッフロールが流れていきます。
これでは、粗筋を書いているようですね。しかし、この映画によって得られた感動は言葉で表すことが出来ないでしょう。それは、言葉を超えたレベルでの共感(共振?)めいたものに、その根源が求められるからかもしれません。とすると、この映画に共鳴できないと、深いレベルでの感動が訪れないかもしれません。リラックスし、物語の流れにゆったりと身を任せましょう。
願わくば、あなたにも幸せが訪れますように・・・。

「ハムレット」 ’96英
原題 HAMLET
監督・脚色・主演 ケネス・ブラナー
撮影 アレックス・トムソン
音楽 パトリック・ドイル
出演 ケイト・ウィンスレット、ジュリー・クリスティ、デレク・ジャコビ
評価 ★★★

<内容>
父であるデンマーク王が亡くなった。一月後、母親であるガートルード王妃は、叔父であるクローディアスと再婚した。そして、クローディアスは戴冠し、王位についた。父の死に疑念を抱くハムレットには、納得のいかないことばかりである。そんな彼のもとに、「城壁に、夜な夜な先王の幽霊が現れる」という噂が届く。これは捨ておくわけにはいかないと、深夜、ハムレットは現場に赴いた。すると、確かにそこには、鎧に身を固めた先王がいた。そしてハムレットは彼の口から、「自分を殺したのは、弟である現在の王である」と告げられる。真実を知り、怒りに駆られるハムレット。彼は、父の復讐を行うと亡霊に誓うのだった・・・。

<感想>
4時間を超える長さのため、劇場公開時は途中でインターバルが置かれたという大作(料金も通常より高い)。
ハムレットはシェークスピア4大悲劇の1つと言われても、他の3つは?と考え込んでしまうほど英文学には疎い(あとはロミオ&ジュリエット、オセロ、マクベス?)。イギリスの作家で知っているのはと考えてみると、SF、ミステリー、等ばかりで古典的な作家の作品などほとんど読んでいない事に気が付く。勿論、シェークスピア等読んだ事が無く、ストーリーは映画を見る事によって知った。なんともお恥ずかしい話なのだけれど、同じような人って結構多いのではないだろうか?

ケネス・ブラナーは、これまでにも監督として役者として、数多くのシェークスピア作品に出演してきました。その作品に対する評価は高く、興行的にも成功を収めてきたわけです。そして今回、彼の集大成として、「ハムレット」という大作を制作したと言うわけです。

さて、この映画を見終わってまず感じた事は、「長い」の一言に尽きます(おそらく、原点の会話を全て使っているのではないでしょうか?)。ストーリーラインを知ってるということも、マイナス要因になってしまいました。先の展開が解っているだけに、遅々として、なかなか先に進もうとしないことにいらだちばかりが募っていきました。
そして、ケネス・ブラナーならではといった要素が少ないということも、物語の魅力を損なっています。原作への畏敬の念からでしょうか?新解釈をしろとまでは言いませんが、モダンな演出をもっと多く導入したほうが良かったのではと感じます。
ということで、ハムレットに興味がある人、もしくはハムレットの内容を知らなければいけない人などには、最適の教材かと思います。

「ハーモニー」 ’96豪
原題 COSI
監督 マーク・ジョフィ
脚本 ルイス・ノーラ
音楽 ステファン・エンデルマン
出演 ベン・メンデルソーン、バリー・オットー、トニ・コレット
評価 ★★★★

<内容>
失業中のルイスは精神病院の入院患者に演劇を教えるという仕事に就く。勝手気ままなことばかり言う役者達。挙げ句の果てに、オペラ「コシ・ファン・トゥッテ」が遣りたいなどと言い出す始末。途方に暮れる彼であったが、役者達は次第にまとまりを見せ始める。そして何気なく受けた仕事であったが、ルイスも本気を出して取り組んでいくのだった・・・。

<感想>
不協和音ばかりが鳴り響く世界に、ほんの僅かな間に過ぎないかもしれないけれど、ハーモニーが生み出されることがあります。そして、その美しい調和を持った和音の響く僅かな時間に、妬み、嫉みなどのネガティブな感情の無い空間が出現します。「愛」なんていう使い古されて形骸化した言葉などで言い表したくはありません。けれど、その空間は何かで充たされています。その場に居る者たちの心に満ち足りた充足感を与えるそれは、人の持つ優しさの源泉と言えるのではないでしょうか。
このオーストラリア生まれの映画には、その奇跡的瞬間が収められています。美しいハーモニーは作品中においても、ほんの僅かな時間しか響きません。けれど、それは見る者の心に元気と、ほんの少しばかり他人に優しくなれるような余裕を与えてくれます。素晴らしい映画です。お奨めします。

「パリのレストラン」 ’95仏
原題 Au Petit Marguery
監督・原作・脚本 ローラン・ベネギ
撮影 リュック・パジェス
出演 ミシェール・オーモン、ステファーヌ・オードラン、ジャック・ガンブラン

<内容>
舞台となるのは、パリのレストラン「プチ・マルグリィ」。30年間、多くの人達に親しまれてきたが、今日が最後の営業となる。シェフの息子や馴染みの客達は、最後の晩餐を供にするために集まるのだった。

<感想>
おいしそうな料理がスクリーンを飾るだけで、その映画が好きになってしまう。まして、料理が物語中大きなウェイトを占めていたるすると、つい傑作の印を押してしまう。思い返してみるに、「バベットの晩餐会」は5つ星の傑作だし、「恋人達の食卓」も大好きだ。毛色は異なるけれど、「コックと泥棒、その妻と愛人」も傑作。こうも素晴らしい作品を回想すると、嫌がおうにもこの作品への期待が高まってくるというものです。

本作は、監督であるローラン・ベネギの自伝的内容の作品である。そして、この作品を鮮やかに彩る料理の全ては、元シェフである、監督の父親が調理している。

<視聴後>

最後の晩餐に集ってきたのは一癖も二癖もある馴染み客。不倫・同性愛・思慕など、様々な関係が彼等の間には存在します。そしてこの物語では、そんな彼等の硬化した気持ちを、料理が解きほぐすという方向性を・・・・、取りません。料理は舞台がレストランであるということから自然に出現すべき結果であり、それ以上でもそれ以下でも無いのです。まして、拗れた人間関係を修復するなどという超越的効果などは持ち得ません。あくまで、人間関係を修復するのは、その当事者達の意志ということなのです。そして、作品中に彼等の関係は次第に修復していきます。その過程は痛快で、見ている側の心も自然と解きほぐしてくれます。これは違った意味でおいしい作品だと、見ていて感じました。

「パンサー」 ’95米
原題 PANTHER
監督 マリオ・ヴァン・ピープルズ
脚本 メルヴィン・ヴァン・ピープルズ
音楽 スタンリー・クラーク
評価 ★★★☆

<内容>
舞台は人種差別の激しかった1960年代はサンフランシスコ。ジャッジとヒューイは事故の連発する近所の十字路に信号を取り付けて貰おうと運動を始めた。しかし、彼等の行く手には不当な差別ばかりが困難として立ちはだかる。そこで彼等は、運動の方向性を警察権力等の圧力に抵抗するものへと変えていった。

<感想>
この物語がどの程度史実に基づくものなのか、知識の無さ故に指摘できない。しかし、この時代に前後して行われた警察の横暴さに関しては、(物語では展開上、脚色が加えられているとしても)事実であったと言えるし、この問題は未だ解決していないとも言える。
この様に、この物語は決して楽しむために見るようなものでは無い。「問題意識を持ちつつ鑑賞する」と言った姿勢が正しいのだろう。また、今作は「マルコムX」の様な宗教色は存在しないので、ある意味一般に容易に受け入れられる素養を持つと言えるかもしれない。

「バンパイアハンターD」 ’01日米合作
監督・脚本・絵コンテ 川尻善昭
原作 菊地秀行
キャラクター原案 天野喜孝
キャラクターデザイン 箕輪豊
設定デザイン 池畑祐治、渡部隆、韮沢靖、小池健
音楽 マルコ・ダンブロージオ
声優 アンドリュー・フィルポット、マイク・マクシェーン、パメラ・シーガル
評価 ★★☆(映像だけなら★★★☆)

<内容>
辺境に住む資産家エルバーンの娘シャーロットが貴族に見初められてしまった。ふつうならば喜ばしい出来事である。しかし、この貴族マイエルリンクは黄昏の眷属(吸血鬼)なのだ。吸血鬼に並の人間が抗することは出来ない。シャーロットは為すすべも無く、誘拐されてしまうのだった。
愛しい娘をさらわれたエルバーンは、凄腕の吸血鬼ハンターに娘の奪還を依頼する。マーカス四兄妹と、ダンピール(吸血鬼と人の混血児)のDにである。
かくして、二組の吸血鬼ハンターによる、シャルロットの奪還劇が始まるのであった…。

<感想>
原作は菊地秀行氏の「吸血鬼ハンターD・妖殺行」。シリーズの三作目にあたる。映画のスクリプトは原作をベースにしつつ、オリジナルな要素を色々と盛り込んでいる。

監督の川尻氏は、あまり日本で評価されることが無い。海外では熱狂的に支持する人も多く、マトリックスのウォシャウスキー兄弟などは熱狂的な彼のファンだ。マトリックスの撮影に際し、川尻監督の「獣兵衛忍風帖」などを研究したのは有名な話。
川尻監督の作品には夜のシーンが多く、仄かに辺りを照らす月光の元での戦いは、妖しくも美しい。初期のリドリー・スコット監督に通じているように思える。

この作品は、川尻作品の中でも最も大がかりなものである。予算の大半を映像に回したと思われ、その映像美は、彼の作品中随一なことは間違いない。しかし、だ。原作自体がそれほど面白い話では無いために、どうにも盛り上がりに欠ける。後半に新キャラ(女吸血鬼カミーラ)を出し、原作にはない展開を見せることで盛り上げる努力をしているのだが、それでも物足りない印象は拭えない。声優のチープさがそれに輪をかけてしまい、更に印象を悪くする。ただ、日本語吹き替え版の配役も決まっているようなので、日本の声優達による名演により、前のような印象が拭えるかもしれない。

また、AVEXとのタイアップによるテーマソングはいかがなものか。作品の余韻がぶち壊しとなっている。これで、-☆以上だ。新居昭乃あたりの歌がラストに流れてきたのなら、作品の評価は+☆以上だったろう。

「ピースメーカー」 ’97米
原題 THE PEACE MAKER
監督 ミミ・レダー
脚本 マイケル・シーファー
撮影 デヒートリッヒ・ローマン
音楽 ハンス・シマー
出演 ジョージ・クルーニー、ニコール・キッドマン、マーセル・ユーセル
評価 ★★★★

<内容>
ロシアから核弾頭10基が盗まれた。1基は事件追尾の目を反らすために爆破され、残る9基は国外に持ち去られた。核兵器密輸対策班のジュリア博士は、核爆発が核弾頭強奪のカモフラージュであると看破する。国防総省からトーマス大佐が派遣され、核弾頭回収作戦が始まるのだった・・・。

<感想>
スピルバーグ、カッツエンバーグ(元ディズニー社長)、デヴィッド・ゲフィン等3人によって創立されたドリームワークスSKG。今作はそのドリームワークスが初めて制作した劇場映画。監督はスピーディーな展開とリアルな描写で定評のあるTVドラマ「ER」出身のミミ・レダー。主演も同TVドラマの出演から人気を得たジョージ・クルーニーを起用。ヒロインはトム・クルーズ夫人としても知られるオーストラリア出身のニコール・キッドマンです。

2時間弱と、アクション映画としては長めの今作。ドリームワークスの第1弾ということだけに、興行的失敗が許されません。ということで、かなり気合の入った作品に仕上がっています。

コルトシングルアクションリボルバーの名銃「ピースメーカー」が決して平和のために用いられるわけでは無いように、今作の主人公達も完全なまったくの善人というわけでは無い。それは、ニコール・キッドマン演じる科学者がいまの職につく以前、核兵器の開発を行っていたという設定が象徴的に表わしている。また、敵役の人物も、ボスニア紛争にて妻と子供を失っている。そして、「直接彼の妻子を殺した人物も非道だが、殺人兵器を供給するアメリカなどの西側諸国の兵器産業こそ諸悪の根元である」というロジックによって犯罪に手を染める。たしかに、一理ある考えであり、説得力もある(だからといって、殺人を犯して良いわけでは無い)。よって見る側には、どちらのほうにも感情を移入する事が出来るわけで、これが物語の幅を生んでいる。
とはいえ、基本的にエンターテイメント映画だ。映画を見みながら社会悪について考える人は少ないだろうし、考える必要も無いのだろう。制作側にしてみれば、上記の設定も映画にリアリティを与えようとするエッセンスにしかすぎないのだろう。
なんだか、あまり誉めていないような文章だけれど、私はこの映画を面白く見させていただいた。ジョージ・クルーニーはいつものように大人になりきれないような人物の演技(?)が巧く、ニコールも映画に華を添えている。最近のアクション映画の中ではダントツの出来ではないだろうか。お薦めします。

「ヒート」 ’95米
原題 HEAT
監督・脚本 マイケル・マン
美術 ニール・スピサック
音楽 エリオット・ゴールデン・タール
評価 ★★

<内容>
名優ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノの初競演作。
マッコリー率いる犯罪チームは有価証券を積んだ運搬車を白昼堂々強奪する。事件を追うヴィンセント警部は、その巧みな犯罪手口に知性を感じ、敵ながら感心の念を抱く。
マッコリーは捜査網が広がる中、仕事を続けていく。一方、警察も徐々にマッコリーに近づいていく。そして、「映画史上に残る。」と製作者が語る12分間に及ぶ市街地での銃激戦が開始される・・・。

<感想>
出演陣の豪華さに一瞬目を奪われるが、監督・脚本担当がマイケル・マンということで、嫌な予感が頭によぎった。思い返して見ると、彼の作品で私が面白いと感じたものは皆無だ。あのトマス・ハリスの名作「レッド・ドラゴン」を映画化したさいに、彼のした仕事のひどさといったら・・・。
で、以下感想。
ひどい。まず脚本がひどい。歌い文句の銃撃戦なんて白昼、しかも一般市民通行中にもかかわらず行っている。事前に犯罪現場が割れているんだから、未然に防ごうとか、せめてSWATを配置して市民を安全な場所に誘導ぐらいするだろう?普通。おとぎばなしじゃないんだから、ある程度のリアリズムは追及するってんが筋ってもんだ。また、銃撃にいたる過程にも、問題がある。と、問題はここだけじゃない。3時間近い映画だからってエピソードを詰め込み過ぎ。それよりストーリーに重要な物だけを残し、もう少し掘下げたほうが物語全体に深みがでるばかりか、輪郭がはっきりするようになって良くなったと思う。そして、名優が初顔合わせしたにも係わらず、あまり画面に緊張感が現れてこない。映画「トゥルー・ロマンス」における、クリストファー・ウォーケンとデニス・ホッパーを期待したのが間違いなのか?はぁ・・・。どうも、褒めるところが見つからないので、ここまでにしておこう。あんまりグチを書いても面白くないや。

「ビフォア・ザ・レイン」 ’94マケドニア
原題 BEFORE THE RAIN
監督・脚本 ミルチェ・マンチェフスキー
撮影監督 マニュエル・テラン
音楽 アナスタシア
評価 ★★★★

<内容>
3つの章から構成され、時間配列的に見ると3-1-2の順で物語が進む。
最初の章ではマケドニア人の修道士とアルバニア人の少女の話で、2章はマケドニア出身の写真家を恋人に持つ女性の話。そして最後の章はその写真家が16年ぶりに故郷に帰る話。
個々のエピソードに登場する人物が、なにかしらの関係で繋がり、物語全体も円環構造を採っています。

<感想>
旧ユーゴの各地で起きている内戦は、その複雑な経緯をもって、歴史的に類を見ないほど複雑で解決が難しい問題である。ここではマケドニアに焦点が当てられ、民族対立によっって生まれた悲劇が、美しくも哀しく綴られている。
ほぼ単一民族といって良い日本では、解りにくい内容の映画かもしれない。けれど、この映画を見ることによって、個々人の胸の内に「民族自決は常に正義なのか?」と言った問題意識が生まれれば良いと思う。

「秘密と嘘」 ’96英
監督・脚本 マイク・リー
撮影 ディック・ホープB.S.C.
美術 アリスン・チッティ
音楽 アンドリュー・ディクスン
出演 ブレンダ・ブレッシン、テモシー・スポール、フィリス・ローガン
評価 ★★★★

<内容>
養母が亡くなってから一月が経ち、黒人女性のホーテンスは実の両親を知るために役所へと向かった。イギリスでは、養子が実父母を知る権利が認められているからだ。そこで知らされたのは、母親が白人女性のシンシアであるということ。黒人である自分の母親が白人だと知り驚く彼女。そしてなんとか会えないだろうかと、シンシアにコンタクトを取り始めた・・・。

<豆知識>
この作品の監督兼脚本家のマイク・リーは、93年に発表した「ネイキッド」により、その年のカンヌ映画祭にて最優秀監督賞と最優秀男優賞(デイヴィッド・シューリス)を獲っています。そして今回の「秘密と嘘」では、カンヌ国際映画祭パルムドール大賞、最優秀主演女優賞、国際映画批評家協会賞を受賞しました。

<感想>
知られたくない真実を隠すため、人は多くの嘘をつく。そして、隠していたものが大きければ大きいほど、それが露呈してしまったときに受ける痛みは大きく、時に、立ち上がれなくなるほどに打ち据えられる。
この映画では、多くの嘘で塗り固められた秘密が暴かれる。そしてその隠されていた秘密は、自分自身を傷つけるだけではなく、周りをも巻き込み、彼らをも傷つけてしまう。
人と人の関係に大きな溝を掘るような嘘。その全てがさらけ出された後、この物語は<癒し>を語る。それは再生であり、明日への希望でもある。全てを知った上で、相手を許し、いたわりあうという行為は、見るものの心を揺さぶり、深い感動を呼び起こすだろう。

「ビューティフル・ガールズ」 ’96米
原題 BEAUTIFUL GIRLS
監督 テッド・デミ
脚本 スコット・ローゼンバーグ
出演 ティモシー・ハットン、マット・ディロン、ナタリー・ポートマン、ミラ・ソルヴィーノ
評価 ★★★

<内容>
ピアノの演奏で生活をたたるウィリーは、高校の同窓会のために帰郷した。ここ数年訪れることが無かった故郷だったが、恋人とのこと、これからの生活のことなど、ゆっくり考える時間が欲しかったからだ。
帰郷の翌日、家の前に積もった雪を取り除いていると、隣に住む13歳の少女マーティーと出会った。幼いながらも聡明な彼女に、彼は惹かれるものを感じていくのだった・・・。

<感想>
ビデオのジャケットだけを見ると、ナタリー・ポートマンを前面に出した、大人と少女の恋物語の印象を受ける。しかし、ナタリー演じるキャラクターは重要だけれども、主役では無い。何人か登場するヒロインの一人、といったところ。レオンが完全版としてリニューアルされ、好評だからと言っての戦略だからと思うが、なんだかなぁといった感じ。
物語は、30歳を目前に控えた男女達の葛藤を描くというのが、基本路線。彼等の心の動きを、印象的なエピソードから巧みに導きだして提示する手法は、ありがちながら効果的で、うまく作用している。
作品中に用いられている音楽は60・70年代のヒット・ポップスで、作中人物の時代設定を考えると、80年代ポップスだろ?などと思ってみたりする。まあ、80年代ポップスって、青春懐古型の物語に必要不可欠な哀愁度が今一つだから、60・70年代ポップスを選択したのは賢い選択でしょう。けど、ケネス・ブラナー監督の「ピーターズ・フレンズ」は80年代ポップスを効果的に用いていたなぁ・・・。まあ、比較するのは無茶か?

「ファイアーストーム」 ’98米
原題 FIRESTORM
監督 ディーン・セムラー
撮影 ステファン・F・ウィンドン、A.C.S.
SFX  クリス・コーボールド
出演 ハウィー・ロング、スコット・グレン、ウィリアム・フォーサイス
評価 ★★★

<内容>
森林火災現場に上空からパラシュートで降下し、消火にあたるスモーク・ジャンパーと呼ばれる消火隊員達がいる。その一人でリーダー格のジェシーは、火災発生の報を受け現場に出動する。しかし、それは脱獄を計画する囚人による人為的な火災だったのだった・・・。

<感想>
「ブロークン・アロー」によって映画デビューを果たした、元NFLのハウィー・ロングを主役に据えたアクション大作。ダイハード以降、アクション映画の主流となった、シチュエーション・アクション。森林火災という状況下、脱獄囚と消火隊隊員が戦うという設定。
このタイプの作品に肝心なのは、俳優の存在感と、アクションの切れ。今作の主人公であるジェシー役のハウィー・ロングはマッチョでストイックな体育会系兄貴タイプ。この映画にはしっくりくる。スタローン、シュワルツネッガーでは年だし、セーガルは論外だし、ヴァンダムでは嫌みすぎただろう。そう考えてみると、この俳優は今までいなかったタイプ。強すぎず、弱すぎ、考えすぎず、かと言ってアホじゃない肉体派俳優。適した脚本の作品に出演していけば、今後大きくブレイクするかも(この映画はアメリカではスマッシュ・ヒットしてます)。
内容にはあまり触れなかったけれど、アクション映画だから、まあ良いでしょう。89分と短めなんで、派手な炎とアクションを中心に楽しんで下さいな。

「ファーゴ」 ’96米
原題 FARGO
監督・脚本 ジョエル・コーエン
製作・脚本 イーサン・コーエン
撮影 ロジャー・ディーキンズ
音楽 カーター・バーウェル
出演 フランシス・マクドーマンド、スティーブ・ブシェミー、ジョン・K・リンチ
評価 ★★★★

<内容>
舞台となるのは、当たり一面を雪で真っ白に染められたノース・ダコタ州はファーゴ。
義父の経営する自動車ディーラーで販売部長を担当するジェリーは多額の借金で首が回らない。そこで、犯罪者を雇って妻の偽装誘拐を行い、義父から多額の身の代金を頂戴するという計画を立案し、実行に移す。
しかし、計画は予想外の障害により、次々とくすれていく・・・。

<感想>
舞台となったファーゴの風景と同じく、凍てついた印象を強く感じさせる物語。登場人物のほとんどに救済は訪れず、登場人物達の夢の大半は無残に砕かれる。この物語に一筋の光明を見いだそうという行為は、徒労にしか終わらないだろう。それほど極北なテイストを感じさせる映画。見ごたえはあるが、後味は最悪・・・。

「ザ・ファン」 ’96米
原題 THE FAN
監督 トニー・スコット
脚本 フォフ・サット
原作 ピーター・エイブラハムズ
音楽 ハンス・ジマー
出演 R・デニーロ、W・スナイプス、エレン・バーキン
評価 ★★★

<内容>
成績の悪さから父親の興した会社から首を宣告され、追い打ちをかけるように愛息へ近づくことを禁じられる。男に残ったのは狂気とも言える大リーグスター、ボビー・レイバーンへのファン意識だった。そして、あることを切っ掛けに、その感情は憎悪へと変化するのだった・・・。

<感想>
トニー・スコットって、良い脚本をより面白く映像化する才にたけた監督。「トゥルー・ロマンス」では才能が爆発していたし、続く「クリムゾン・タイド」もタランティーノの協力も手伝い、面白い映画に仕上がっていた。その職人的監督手腕は、ちょっと前までのジョナサン・デミ監督に近いかもしれない。
で、今作の脚本はと言うと・・・。あまり面白いとは言えない。極端な迄にストレートと言った感じ。映画ならではといった物語上の捻りが欲しかった。
次第にパラノイックな傾向を強めていく主人公にロバート・デ・ニーロというキャスティングも、正統的過ぎて面白味に欠ける。製作側としては安心できる役者だろうが、意外性を感じさせつつもはまっていると思わせてくれる役者を起用するなどして、作品にスパイスを聞かせて欲しいと思う。
絶賛できるほどの作品では無いが、ストーカーという概念を浸透させるのに一役買うであろう佳作。

「フィオナの海」 ’94米
原題 the Secret of Roan Irish
監督・脚本 ジョン・セイルズ
音楽 メイソン・ダーリング
撮影 ハスケル・ウェクスラー
衣装 コンソラータ・ボイル
出演 ジェニ・コトーニー、アイリーン・コルガン、リチャード・シェリダン
評価 ★★★☆

<内容>
母親を亡くしたフィオナは、アイルランドに住む祖父母の家に引き取られた。そこは未だ伝説が風化せずに残る土地。彼女は伝承された様々な物語を聞く。
そしてある日、彼女は幼い日に海の彼方に消えていった弟の姿を、遊びに行った先の小島で見いだした・・・。

<豆知識>
ジョン・セイルズといえば、ロジャー・コーマン門下のB級映画の脚本家として有名(ピラニア、宇宙の7人、ハウリング、etc)。で、自身の監督作品はというと、社会派な作品が多い。というわけで、この作品は彼の経歴から見るとちょっと移植な作品。

<感想>
美しいアイルランドの島々の景色は、それだけで1つの芸術作品。これだけで見る価値があるというところだが、この作品では更にケルトな音楽とストーリーが展開する。主演の女の子も、この映画にはピッタリな繊細な感じのする少女。
こうなると、昨今のケルトブームにメロメロという人には、もう落涙ものの作品でしょう。

「フィフス・エレメント」 ’97米
原題 THE FIFTH ELEMENT
監督 リュック・ベッソン
脚本 リュック・ベッソン、ロバート・マーク・ケイメン
撮影 ティエリー・アルボガスト
衣装 ジャン=ポール・ゴルチエ
音楽 エリック・セラ
SFX  デジタル・ドメイン社
出演 ブルース・ウィリス、ミラ・ジョヴォヴィチ、ゲイリー・オールドマン
評価 ★★★

<内容>
邪悪な存在により、宇宙は未曾有の危機に襲われる。これから守る手だては、4大元素である水・土・火・風と4つ目のエレメントであるリールーだけ。元宇宙連邦特殊部隊で、現在はタクシー乗りのコーベンは、彼女を守り、4大元素を象徴する石を探し求めるのだった・・・。

<感想>
物語冒頭からいきなり「3つの惑星の食でブラックホールが開き、邪悪が恐怖と混乱をもたらす」という突飛なセリフ。これだけで、ああっ、SFというよりスペースオペラ的な娯楽映画だなということが安易に想像出来る。そして、配役に目をやると、アクション映画であることを想像するのは難しくないだろう。
鑑賞してみると、まさにそのとおりの映画。設定を超えるような感動など無い。メビウスやエンキ・ビラルのようなフレンチコミックテイスト溢れるゴージャスな映像を楽しむことが出来るぐらい。シナリオの面からも関心に値する点は無い。宇宙版ダイハードとして見ようにも、悪役の存在が希薄なために盛り上がりに欠ける。勧善懲悪的な物語なのだから、ゲイリー・オールドマンの存在を悪の象徴として、もっと前面に押し出しても良かったのではないだろうか?
とはいえ、まずは楽しめる娯楽作品。

「フェノミナン」 ’96米
原題 PHENOMENON
監督 ジョン・タートルトーブ
脚本 ジェラルド・ディペゴ
音楽 トーマス・ニューマン(主題歌「チェンジ・ザ・ワールド」E・クラプトン)
撮影 フェドン・パパマイケル
出演 ジョン・トラボルタ、キーラ・セジウィック、フォレスト・テイカー、ロバート・デュバル
評価 ★★★☆

<内容>
気の良い自動車整備工のジョージは、37回目のバースデイの夜、空を見上げた瞬間に謎の閃光を浴びた。以来、彼の頭は驚くほど冴え、驚くべき学習能力が身に備わった。
彼は町の人達にもこの力を還元しようと考えた。しかし、却ってそれが人々を遠ざける要因になってしまう。そしてある日、悪戯気分で行っていた暗号解読が軍の知られるところとなり、逮捕されてしまうのだった・・・。

<感想>
この映画の何処に感動したかと言えば、普通なら蛇足とも取られかねないエピローグ部分。亡くなった主人公の誕生日に彼の友人達がバーに集まり、彼のことを楽しそうに語りあうというシーケンス。これにより、各々の記憶の中で主人公は生き続けていることが確認出来ると共に、彼の意志は確実に受け継がれていることを知ることが出来る。
ちょっとしたシーンなのだけれど、これにより感動はさらに深いものになっていく。いかにもハリウッド的な映画ですが、感動的な作品です。

「ブラザー・マクマレン」 ’95米
原題 BROTHERS McMULLEN
監督・脚本・出演・製作 エドワード・バーンズ
評価 ★★★★

<インフォメーション>
’95年サンダンス映画祭最優秀作品賞受賞。監督、脚本、主演と三役をそつ無くこなす驚異の新人エドワード・バーンズ、デビュー作品。

<内容>
酒乱の父親が死に、母は真実の愛に生きると次男に告げ、35年もの長きに渡って彼女を待ち続ける恋人の待つアイルランドへと旅立った。五年後、残された三兄弟はそれぞれ恋の悩みを抱え、各々迷走していく・・・。

<感想>
他愛のない話である。 三兄弟それぞれの恋愛模様を描いた物語と言ってしまえば、それまででもある。浮気をする長兄、浮気者の次兄、お堅い末弟。それぞれのエピソードは傍目から見れば、笑える話ですんでしまうだろう。しかし、作中で彼ら三兄弟は悩んだり、怒ったり、笑ったり、泣いたりするのに付き合っていると、なんとも放ってはおけない心持ちにもなるから不思議だ。他人どころか、物語の作中人物でしかない彼らの苦悩が我がことのような感じさえしてくる。それなりの結末に落ち着くことが出来て、最後にはホッとする自分がいた。

作中で流れるアイリッシュなBGMはサントラを購入するほど素晴らしい。エンディングでは、この作品のためにサラ・マクラクランが書き下ろした曲「I will remember you」が流れる。これも名曲。この曲を聴くために、この作品を見るのも有りだと思う。それほどに良い。

社会性のある問題などもなく、3兄弟それぞれの恋愛物語を描いたドラマである。しかし、なんとも形容のしがたい魅力がある作品だ。監督の作風はどこかウッディー・アレンに通じるものがあるので、彼のファンも見てみることを勧める。

「ブレードランナー ディレクターズカット版」 ’91(オリジナル版は82年)米
原題 BLADE RUNNER
監督 リドリー・スコット
原作 P・K・ディック
脚本 ハンプトン・ファンチャー、デヴィッド・ピープルズ
音楽 ヴァンゲリス
美術 シド・ミード
出演 ハリソン・フォード、ルドガー・ハウアー、ショーン・ヤング、ダリル・ハンナ
評価 ★★★★☆(オリジナルは★5つ)

<内容>
舞台は2019年のロサンジェルス。宇宙空間での作業に従事させられていたレプリカント(人間そっくりなロボット。知能のレベルは制作者に匹敵)6体が反乱を起こし、地球行きのシャトルを強奪。地球へと潜入した。向かった先はロサンジェルスに本社を持つタイレル社。彼らを作り出した企業だ。彼らは自分たちに設定された4年という寿命のリミッターを外そうと考えていたのだった。
自体を重く見たLA市警は引退した凄腕の元ブレードランナー(対レプリカント犯罪専門の刑事)デッカードを呼び出し、捜査の任にあたらせるのだった…。

<感想>
SF映画史上に残る金字塔にして、映画としても最高レベル。未だ汲み尽くせない強烈なイメージの源泉であり、アニメ、漫画、SF小説は例を出すまでもなく、一般小説や映画などあらゆる分野にも未だ多大な影響を与える怪物的作品。私の最もフェイバリットな映画の中の1本であり、未だこれを超えるSF映画を私は知らない。

今回紹介するブレードランナーのバージョンは公開版、完全版(一部シーンを追加)に続いて制作され、最終版と銘打たれたディレクターズカット版。ハリソン・フォードによるナレーション(ハードボイルドな独白調で、これはこれで悪くない)の削除、各種新カット(撮影は当時行ったもの)の挿入、ラストシーンの差し替えと、かなり修正されており、受ける印象もオリジナル版とはかなり変わってくる。

新カットで大きな意味を持ってくるのはデッカードが見る夢。幻想的な深い森の中をユニコーンがこちらに向かって走ってくるというもの。ここでこの意味を考察してみる。
ユニコーンが意味する物は処女性である。夢とは過去に経験・集積した記憶をベースにしたリプレイ・再構築。その経験などの記憶に処女性のイメージ>未だ触れられていない記憶>作られた記憶と連想することが出来る。となると、デッカードも実はレプリカントなのでは?という推論が浮かんでくる。ここでいきなりラストのシーンになるが、デッカードがレプリカントであるレイチェルを連れて逃亡する際、部屋の出口側にユニコーンの折り紙が置いてある。デッカードの相棒であるギャフの折ったものだ。デッカードしか知るはずの無い夢の内容。それを折り紙の形で「俺も知っている」と提示するギャフ。デッカードの記憶は作られた物であるということ。つまりデッカードもレプリカントであるということが、今度はロジカルに提示されるのだ。

とはいえ、これら一連の新しいシーンはこの作品をブラッシュアップしているかというと、そうでも無いと言わざる終えない。当時撮影したものだけを素材に再構築したので、構成が洗練されていないのだ。先ほどのシーンももう少し効果的に、もっと分かり易く見せることも出来ただろう。よって、重要な変更点にも関わらず、どうにも蛇足な印象を受けてしまう。レプリカントのロイが昇天するシーンを白鳩が大空に飛び立つことで暗示したカットのような名シーンがあるだけに、その思いも強くなる。

今回はブレードランナーを見たことがある方を前提に書いたので、知らない人は御免なさい。見ていないけれど、興味を持った人は是非。出来ればオリジナル版を見てから、最終版を見た方が良いでしょう。でも、DVDでは最終版しか無いのでビデオを探すしか無いのが曲者ではあります。
とにかく、見ておいて損はない映画史に残る傑作。リドリー・スコット監督が最も才気を発揮していた時期の作品です。

「ブルー・イン・ザ・フェイス」 ’95日米合作
原題 BLUE IN THE FACE
監督 ウェイン・ワン
脚本 ポール・オースター
評価 ★★★☆

<内容>
「スモーク」で意気統合した原作者P・オスターと監督、そしてスタッフが、同じ舞台設定を用いて創った作品。前作では多少舞台が移動したが、今作は店とその周辺のみ。で、客が来て店主とヨタ話をしては帰っていくというのがストーリーの根幹。

<感想>
前作「スモーク」より私はこちらを強く推したい。確かに、「スモーク」は良い味を出していた。即興派のハーヴェイ・カイテルと脚本から演技を練っていくウイリアム・ハート、この相入れない二人の静かながらも火花散る演技は、見ていてゾクゾクした。で、「ブルー・イン・ザ・フェイス」の方はというと、話も演技も非常にゆったりとしていて緊張感は無い。けど、見終わったあと、こっちのほうが気分良いんだよ。ただ、それだけの理由なんだけどね。

「フルモンティ」’97英
原題 THE FULL MONTY
監督 ピーター・カッタネオ
脚本 サイモン・ボーフォイ
音楽 アン・ダドリー
撮影 ジョン・デ・ボーマンB.S.C.
出演 ロバート・カーライル、トム・ウィルキンソン、マーク・アディ、スティーブ・ヒューイソン、ウィリアム・スネーブ
評価 ★★★★

<内容>
失業中のガズは息子の養育費が払えず、親権を奪われるのも間近。ここはなんとか一攫千金を狙うしかない。しかし、持っているのは自分の体だけ。そこで、彼は全てを脱ぎ捨てた。そう、まさにフルモンティ(全裸)になって勝負を挑むのだった。

<感想>
人前で裸になり、更にそれをショーとして演じる。仕方がないこととは言え、男達のプライドはズタズタ。しかし、ストリップに真剣に取り込んでいく過程で、そのプライドは少しずつではあるが変化していく。変化を遂げる男達の後ろ姿には、哀愁と新たなる喜びが見て取れ、それがまた良い味を醸し出している。
物語ラストのストリップ・シーン。出演者達の表情を見ていると、服を脱ぐと同時に心まで軽やかになっていくのが解る。それは、コンプレックスやプライドなどの感情で心の周りに築かれた壁が壊されていくからだろう。最後まで心の壁を崩すことが無かった日本の某アニメーションは、それ故に物語が閉じてしまったが、この映画では最終的に物語は解放され、見る者の心に感動を伝播する。
視聴後、何とも気持ちの良い清々しさを感じることが出来た。お奨め。

「フロム・ダスク・ティル・ドーン」 ’96米
原題 FROM DUSK TILL DAWN
監督 ロバート・ロドリゲス
脚本 クエインティン・タランティーノ
原案 ロバート・カーツマン
出演 ジョージ・クルーニ、ハーヴェイ・カイテル、クエンティン・タランティーノ
評価 ★★★

<内容>
銀行強盗犯ゲッコー兄弟は、メキシコへと逃走の最中。そして、運悪く彼等に出会い、脅迫の末に逃亡の手伝いをすることになったのは、信仰を失った元牧師と二人の子供。国境をなんとか越えた彼等は、強奪金の30%と引き換えに安全な場所を提供するというメキシコマフィアとの待ち合わせ場所である酒場に向かった。
バイカーやトラッカーの集ういかがわしい酒場で、一行は待ち合わせ時間の夜明けまで飲んで待つことにする。しかし、情緒不安定で激昂しやすい弟が、ただ大人しく飲んでいるはずがなく、早速問題を起こしてしまう。巻き込まれた兄も一緒になり、何人かの人間を射殺する。静かになったところで、飲み直そうとテーブルに着いた二人だが、殺したはずのやつらが、むっくりと起きあがるのを目にする。何と、彼等の正体はヴァンパイアで、ここは彼等の餌場を兼ねた住みかだったのだ・・・。
こうして、夜明けまで彼等とヴァンパイアとの壮絶な戦いの幕が開いたのだった。

<感想>
サム・ライミ監督等のテイストレスなB級ホラーへのオマージュか?いたる所に彼等への尊敬の念が感じられる。いっそ、B・キャンベルを、強いんだけど頭足りずに、自爆してヴァンパイア化するというキャラで出演させてくれたら最高だったんだが(^^;
しかし、内容の無い映画っすね。細かいアクションや、タランティーノなセリフがイカスから楽しめたんで文句無いっすけどね。しっかしこの監督、B級娯楽映画路線まっしぐらか?

「不滅の恋」 ’94米
原題 LUDWIG VAN BEETHOVEN
監督、脚本:バーナード・ローズ
音楽:サー・ゲオルグ・ショルティ
出演 ゲイリー・オールドマン、イザベラ・ロッセリーニ
評価 ★★★★

<内容>
ベートーベンの死後発見された謎の遺書。そこには「財産のすべてを不滅の恋人に捧げる」と記されていた。彼の弟子であり秘書である男は、その不滅の恋人と目される3人の女性のもとを尋ね歩く。

<感想>
ちょっとしたボタンの掛け違いのような出来事が、人の人生を大きく変えてしまうことがある。それはほんの些細なことで回避できたりするのだけれど、いちどたがえてしまうと二度と元に戻ることが出来ない。そして人は、その人生の分岐点とも言えるような出来事に、一生後悔しつづけたりしてしまう。この物語は、そんな切ない想いを生涯かかえこみ、その愛の深さゆえに相手を憎しみ続けた悲しい男の話。後半「歓喜の歌」の上演以降の展開では視界が涙で歪んでしまい、まともに画面を見ることができませんでした。

「プリシラ」 ’94豪
原題 PRICIRA
監督・脚本 ステファン・エリオット
音楽 ガイ・クロス
衣装デザイン リジー・ガーディナー/ティム・チャペル
チーフ女装コンサルタント ストライカーマイヤー
評価 ★★★★

<内容>
砂漠をひた走る1台のバス。乗っているのは3人のドラッグ・クイーン。旅に 出た理由はそれぞれ異なるけれど、各々の夢を果たすため共に行く。さて、彼女 達(?)に心の平安は訪れるのか・・・。

<感想>
いやー、笑った笑った。そんでもって、たまにホロリとさせてくれる。視聴後も壮快感が残り、最高!やはり南半球の映画は良いね。この種の映画はヨーロッパやアメリカでは作れないよ。暗いか、下世話になっちまうから。
スカッとしたいときに何時でも見ることが出来るよう、ビデオを購入しました

「ベイブ」 ’95豪
原題 BABE
監督 クリス・ヌーナン
製作 ジョージ・ミラー
評価 ★★★☆

<内容>
擬人化された動物たちの世界は人間世界の縮図。彼を取り巻く環境でも、自己の本分を越えないように生きることが良とされる。そして、そんな世界をベイブは、純粋という武器一つだけで力強く生き抜いていく・・・。

<感想>
ただの動物映画だろ?と思って見ていたら、不覚にも感動してしまいました(感動するツボが違うかもしれないけれど・・・)。
と、そんなことよりこの映画、作品のそこかしこから南半球映画のテイスト(ニュージランドやオーストラリアの映画はどこか変。でもそこが好き)が感じられてGOOD!(脚本のジョージ・ミラーが原因か?監督についての詳しい情報が無いのだが彼も南半球出身かも?)

<後日談>
監督クリス・ヌーナンはオーストラリアの新人監督さんでした。やはりと納得した次第。

「ベスト・フレンズ・ウェディング」 ’97米
原題 MY BEST FRIEND'S WEDDING
監督 P.J.ホーガン
制作・脚本 ジュリー・ザッカー
撮影 ラズロ・コバックス
出演 ジュリア・ロバーツ、ダーモット・マルロニー、キャメロン・ディアス
評価 ★★★☆

<内容>
料理記者のジュリアンは、親友のマイケルと「28歳までお互い独身だったら結婚しよう」という約束を交わしていた。そして28歳の誕生日を3週間後に控えていたある日、留守電に「大切な話がある」という意味ありげなマイケルからのメッセージが録音されていた。彼に電話をすると、恋人が出来たので日曜日に結婚すると告げられる。てっきり自分との結婚の話だとばかり考えていたジュリアンは、腰を抜かす程驚く。そして彼女は、なんとか彼を自分の元に取り戻そうと画策するのだった・・・。

<感想>
同監督のデビュー作品である「ミュリエルの結婚」は、時間の都合かつかなかったために見逃してしまった。「まあ、ビデオで見れば良いさ」と考えていると、レンタル店にも入荷しなかった。ここまでくると維持になるもので、販売用の低価格版ビデオが出たら購入しようと考えている。

さて本作の話。オーストラリア出身の監督だけに、演出は派手だ。おおげさなアクションと、すぐに歌い出すキャラクター達のオンパレード。それはどこかズレているのだけれど、良い味となって作品を面白くしている(*1)。
主演のジュリア・ロバーツはこのところヒット作品に恵まれなかったけれど、これは久々にヒット作品と言える。共演のキャメロン・ディアスの音痴ぶりも一聴の価値有りだ。
カラッと明るく突きぬけたスラップスティックコメディの秀作。ジュリアが嫌いでも楽しく見られます。

(*1)
その奇妙なズレを僕はオーストラリアン・テイストと僕は呼ぶ訳だが、その源がどこらへんにあるのかはまだ漠然としか掴めていない。しかし、この味はアメリカ出身の監督に出せるものではないということだけは言える(って、以前にも書いたような記憶が・・・)。

「ペレ」 ’87 スウェーデン・デンマーク合作
原題 PELLE
監督・脚本 ビレ・アウグスト
原作 マーチン・アナセン・ネクセ
撮影監督 イェリン・ペルション
美術 アンナ・アスプ
出演 ペレ・ヴェネゴー、マックス・フォン・シドウ
評価 ★★★★☆

<内容>
19世紀末、スウェーデンから新天地での再出発を夢見てデンマークへとやってきた年老いた父と幼い息子ペレ。何とか農園での仕事に就いた親子であったが、労働は辛く厳しいものだった。父は年と共に夢を失っていき、ペレは生きていくことの苛酷さを、美しさを知り始めた・・・。

<感想>
この映画にあるのは、挫折と希望。ビレ・アウグスト監督は、苛酷な生の営みを神のごとき視点から写し撮る。感傷とか同情の視点を超えたその視線は、僕の目には時に残酷に見えたりする。例えば、年老いた父とまだ幼い息子の対比。この物語の根幹をなす、この設定はあまりに切ない。しかし、それは誰もが直面するであろう現実でもある。ゆえに、それは僕の胸を強く締め付けずにおかない。
楽しい映画ではない。しかし、この映画が与えてくれるものは、凡百の映画を見るより深く心に残るでしょう。お勧めです。

「ボクサー」 ’97米
原題 THE BOXER
監督 ジム・シェリダン
脚本 ジム・シェリダン、アーサー・ラビン
撮影 クリス・メンジェス
音楽 ギャビン・フライデー、モーリス・シーザー
出演 ダニエル・デイ=ルイス、エミリー・ワトソン、ブライアン・コックス
評価 ★★★★

<内容>
爆弾テロの実行犯として服役していた元IRAの闘士ダニーは、14年振りに故郷ベルファストに帰ってきた。ボクサーとしての生き方しか知らない彼は、かつて彼のトレーナーであったリアムと一緒に、廃れていたジムを復興させる。
ボクシングジムの運営資金を得るためのチャリティー試合にて、ダニーは何度も相手に打ちのめされながらも、あきらめずに立ち向かっていく。その姿は、人々の心に希望を与え、平和への想いを強くさせる。しかし、そんな彼の姿を快く思わない人間達がIRAの中にはいるのだった・・・。

<感想>
物語は、登場人物各々に対し一歩引いた視点を保ち、全体に青みがかった映像と合間って、冷ややかに描写される。この視点により、カトリックにもプロテスタントにも偏らない位置から、この物語に対して接する事が出来た。そして、この視点はラストまで徹底されており、その結末は決して明るいものではない。更に深く、北アイルランドの問題について考えさせることとなった。

平和とは、多くの犠牲を積み上げることによってしか成し得ないのか。また、そのようにして得た一時の平安を、人々の心に深い傷を残す事によって得たそれを、果たして平和と呼んで言いのだろうか。

平和に対する想いを強く喚起させるこの物語を、私は強くお薦めします。

「ボルケーノ」 ’97米
原題 VOLCANO
監督 ミック・ジャクソン
脚本 ジェローム・アームストロング、ビリー・レイ
音楽 アラン・シルベストリ
SFX  マット・ベック
評価 ★★★☆

<内容>
早朝のロサンジェルス。軽い地震が街を揺らす。しかし、なにもかもがいつもと変わりないように見える。
危機管理局の局長マイクは、地下鉄工事現場にて作業員が焼死するという事件の調査のために、現場を訪れていた。地下に潜り、調査を開始した彼は、高温のガスが吹き出していることを確認する。しかし、それはこれから起こる大災害の予兆でしかなかった・・・。

<感想>
熱い、熱い、熱い。街を襲うマグマも熱いが、物語で展開されるドラマも熱い。
コンピュータグラフィックを駆使した単なる災害映画の類と考えていたが、それは大きな過ちだった。なんと、天災に対して真っ向から戦いを挑む男の物語だった。普通ならば、為すすべもなく逃げまどうであろうシチューエーションでも、主人公は周りの人間を統制し、街を破壊しながら突き進むマグマの流れを変えようと挑む。バスを横倒しにしてみたり、周りのビル群を流用して即席のダムを作ってみたり。「そんな馬鹿な」と、一笑に付してしまうような展開でも、緊迫する映像がそれを許してくれない。そしてさらに物語を熱くすべく、細かい感動のドラマが挿入される。人種を超えて協力し合うとか。ううっ、熱すぎ・・・。
まさに、手に汗握るという表現がピッタリとするアクション映画。近頃無駄に挿入される余計な18禁的映像も無いので、家族で見てもOK。でも、感化されて災害時に主人公のような行動を取っては駄目ですよ。災害を拡大する恐れがありますので

「ボーン・コレクター」 ’99米
原題 THE BONE COLLECTOR
監督 フィリップ・ノイス
原作 ジェフリー・ディーヴァー
脚本 ジェレミー・アイアコン
撮影 ディーン・セムラー
音楽 クレイグ・アームストロング
出演 デンゼル・ワシントン、アンジェリーナ・ジョリー、マイケル・ルーカー、クイーン・ラディファ
評価 ★★☆(原作を読んだ方は★を一つ減らして下さい)

<内容>
捜査中の事故で半身不随となった科学捜査官リンカーン・ライムは、卓越した知性を持ちながら、その生活の大半をベットの上で過ごしていた。度重なる痙攣発作は彼に植物人間化してしまう恐怖を覚えさ、死を望ませていた。
そんなリンカーンの元に、以前の仕事仲間であるポーリー刑事が訪れる。片手を除き全身を地面に埋められた富豪の射殺体に関する事件資料を持って。その死体の指先は骨が剥き出しにされており、同時に行方不明となった死体の妻の指輪が填められていたという。

初めは簡単な事件だと相手にしなかったライムだが、犯行現場に残された証拠品から犯人の残したメッセージを読み解く。この事件に興味を抱いたライムは、捜査への参加を決意する。そして、この遺留品を見つけた女性捜査官を彼の目、手足にすべく、召喚したのだった…。

<感想>
映画館に足を運ぼうと思っていたのですが、ついつい先延ばしにしている間に公開終了。いずれビデオで借りるかと思っていたところ、行きつけの古書店にて原作本が1000円で売っていたので購入しました。

読んでみるとこれがなかなか良くできた作品で、表面的にはサイコスリラーなんですが、本格推理の要素も色濃く、最後にあらわれた犯人には実に驚かされました。続編として刊行された「コフィン・ダンサー」も、一筋縄ではいかないストーリー展開で唸らされ、今後も期待していきたいシリーズの登場に喜びを感じました。

このレベルの原作なら映画も良いのでは?と考え、3800円と比較的低価格でDVDが発売されたこともあり、購入してみました。

比較的順調にストーリーは始まり、これはなかなかのレベルだぞと楽しみながら見ていたのですが、原作ではなかなかスリリングな犯罪現場の検証シーンにあまり時間が割かれていないことに不満を覚えました。まあ、あまり理詰めな話にすると観客が付いてこれなくなるから仕方がないことかもしれないと先に進めると、原作との相違点がいちいち気に懸かります。あの伏線が無いと言うことは、あれも無いと言うことで…。すると、犯人が実は○×でしたなんていうことになると、あまりにアンフェアじゃないのか?などなど。
しかし、その思いは杞憂でしかありませんでした。だって、原作とは犯人を換えてしまっているのですから…。勿論、犯行の動機も異なります。犯人とライムの直接的な対決シーンは原作に近いのですが、もう、そんなことどうでも良いという感じ。エンディングのスタッフロールと共にP・ガブリエルの「DON'T GIVE UP」が流れる中、しばらく放心してしまいました。金返せな心境です。

とはいえ、原作を読んでいない方なら、それなりのサイコスリラーとして楽しめるのではないかと思います。犯人にもそれなりに納得がいくかもしれません。でも、本当の「ボーン・コレクター」がこういう作品だと思われてしまうのは不憫なので、映画を気に入った人は原作も読んであげましょう。映画を見てから原作をよむという順序なら、楽しめるはずです。そして、映画が原作のテイストを完全に反映することが出来なかったことを知るでしょう。残念です。

「ホーンテッド (劇場公開題「月下の恋」)」 ’95英
原題 HAUNTED
監督 ルイス・ギルバート
撮影 トニー・ピアス=ロバーツ
美術 ゲイリー・トムキンズ
衣装 ジェーン・ロビンソン、キャンディー・パターソン
音楽 デビー・ワイズマン
出演 エイダン・クイン、ケイト・ベッキンセール、ジョン・ギールグッド
評価 ★★★

<内容>
舞台は1928年のイギリスはウエスト・エセックス。大学で超心理学を研究するデビッドは、幽霊がでるという屋敷を調査するために訪れた。迎えにきてくれた美しい女性クリスティーナは、屋敷に住む3人兄妹の内の一人。デビッドは一目で彼女に惹かれてしまう。
幽霊が確かにいるという証拠を発見できぬまま、屋敷に滞在するデビッド。その中で彼女との関係は次第に深まっていくのだった・・・。

<感想>
物語は中盤過ぎるまで、美しい恋愛物語の様相を呈する。しかし、驚愕の事実が徐々に暴かれるに従い、物語はその方向性を急激に変えていく。(ここで、公開時のタイトル「月下の恋」というのが、効果を発揮します)
役者も舞台も原作も、全てイギリスというこの映画。安易にホラー映画として括るのは大間違いです。ここは格調高く、ゴースト・ストーリーと呼んであげたい。