「あこがれ美しく燃えて」 ’95スウェーデン
原題 LUST OCH FAGRING STOR
監督・脚本 ボー・ヴィーデルベリ
撮影 モッテン・ブルウス
音楽 ヘンデル(歌劇「リナルド」よりアリア「わが泣くままに」)
出演 ユーハン・ヴィーデルベリ、マーリカ・ラーゲルクランツ、トーマス・フォン・ブレムセン
評価 ★★★☆
<内容>
舞台は第2時大戦下のスウェーデン。中学3年生のスティーブは、新しく赴任した女教師ヴィオーラに憧れを抱く。
彼女への思いを募らせていったスティーブは、二人きりになったことをきっかけに、彼女に口づけをする。驚くヴィオーラだったが、彼を受け入れた。
次第に関係を深めていく大胆な二人。それほど時間がかからぬうちに、ヴィオラの夫であるスティーブに関係が知られてしまう。しかし、彼女の夫は二人の関係を黙認するのだった・・・。
<豆知識>
監督は、脱走兵と旅芸人の娘の悲恋を描いた「みじかくも美しく燃え」のポーヴィーデルベリ。主役のスティーブを演じるのは、監督の実子である、ユーハン・ヴィーデルベリ。
<感想>
少年は僅か1年の間に様々な生(性)と死を体験する。それは歓びであり、悲しみでもあるのだけれど、共に心に深い傷を残していく。しかし、それらは少年に痛みばかりをもたらすものではない。同時に、大人へと多くの成長を促していく。そしてそれは物語のエピローグ、教室に備え付けの百科事典(*1)を自分の物として持ち去っていくシーンが良く象徴している。
(*1)
百科事典を知識の集積されたものとして定義すると、そこからエデンの林檎を想起するということは、それほど飛躍した思考では無いはずだ。とすれば、その知を獲得するという行為(=大人になる)の過程には、多くの困難が伴うという意味を内包してくる。
つまりこの作品の百科事典を持ち去るという行為は、大人へと成長を遂げることのメタファーとして機能しているのである。
「アサインメント」 ’97米
原題 THE ASSIGNMENT
監督 クリスチャン・デュゲイ
脚本 ダン・ゴードン、サビ・H・シャブタイ
撮影 デビッド・フランコ
出演 アイダン・クイン、ドナルドサザーランド、ベン・キングスレー
評価 ★★★☆
<内容>
アメリカ海軍将校のラミレスは、寄港先のイスラエルにてモサドの工作員に捕まる。それは、史上最悪の無差別テロリスト、ジャッカルとそっくりの顔をしていたための、誤認逮捕だった。なんとか誤解を解くことが出来たが、この件により、彼の存在に対しCIAは興味を抱いた。そして、彼を使ってジャッカルを捕まえる作戦を立案するのだった。
そのような計画には協力出来ないと断ったラミレスだったが、海軍上層部からの指令により、参加することになった。
CIAとモサドの共同作戦は、まずラミレスをジャッカルと同化させるためにことから始まった。そして、過酷な訓練はラミレスを冷酷な殺人鬼ジャッカルへと近づけていくのだった・・・。
<感想>
主役(一人二役)にアイダン・クインという演技派の俳優を選択をしたことによって、今作品は単なるエンターテイメント・アクション映画とは一線を画している。深くジャッカルの心に接近していくことによって、アイデンティティ・クライシスに陥るなど、現在主流のアクション映画の主人公には見られないキャラクター造形だ。これは、今作品が実話をベースにしていることに因るところが大きいのだろう。
アクション映画には、単純に爽快感だけを求めるという人には向かないが、ドラマ性の高いアクション映画が見たいという人にお薦め。
「アサシンズ」’97仏・独
原題 ASSASSIN(S)
監督 マチュー・カソヴィッツ
脚本 マチュー・カソビッツ、ニコラ・ブクリエフ
撮影 ピエール・アイム
音楽 カーター・バーウェル
出演 ミシェル・セロー、メディ・ベノーファ、マチュー・カソヴィッツ
評価 ★★★★
<内容>
独自の美学による殺しを至上とする老殺し屋は、自分の持つ技術を残そうと考え、青年マックスに教育を始めた。しかし、殺人という現実に、マックスは耐えがたい重さを感じる。そんな心の弱さが、初めての殺しに少年メディを同行させることになるのだった。マックスと異なり、メディはまったく動じることなく殺しを遂行する。こんなことは、まるでTVゲームの延長であるかのように・・・。
<感想>
知識や技術のみの継承はたやすい。しかし、そこに付随する想いまで伝えることは、難しい。なぜそれらを必要としたのか、その発展にはどれほどの犠牲があったのか。これらの情報が付随することなく伝達されたものは、やがて本来の目的からは逸脱する方向へと一人歩きしていくことになるだろう。
今作においては、3世代間に殺人という技術がコピーされる。それはまさに複写であり、表層的なものしか伝達されなかった。老人は殺人という技に誇りとこだわりを持った。若者は殺人という技術には馴染みきれなかった。そして、少年は殺人をGAME感覚で遊んだ。この世代間のギャップは、知識がコピー的に継承されていった結果によるものだ。
知識の伝播による差異は、文化発展の大きな要素でもある。しかし、それだけではすまないものを、この作品からは感じとった。
また、この作品の切ないところは、3世代の殺し屋達それぞれが、共通して(それぞれの認識しうる範囲内においての)世界に対する不満や、その世界における自分の現状にやるせない気持ちを抱いていることである。誰もが持つであろう悩みではあるが、彼らには存在を脅かすほどの問題だ。特に少年の場合は切実である。年若い彼の世界は、他の二人に比べてあまりにも小さい。そして、その大半を占めるであろう学校から疎外されているのだ。殺し屋という居場所を得たことにより、一時の安定を得た。しかし、老人の引退と共に、その拠り所すら失ったわけだ。行き場を失った彼は、その鬱積した感情の矛先を身近なものにむけるしかなかった・・・。これはたまらなく切ない。
様々な問題を提起する今作は、今を生きる誰もが目を向けなければいけない作品だ。それぞれの問題に対する答えは提示されていない。それは安易に解決出来る問題では無いからだ。僕たちが、これから考えていかなくてはいけない重要な問題だ。
「AVALON」 ’2000 日&ポーランド
監督 押井守
脚本 伊藤和典
音楽 川井憲次
VE 古賀信明
衣装 マグダレナ・テスワフスカ
出演 マウゴジャータ・フォレムニャック、ヴァディスワフ・コヴァルスキ、イエジ・グデイコ
評価 ★★★★
<内容>
近未来、経済的に荒廃した社会において若者達は、コンピュータネットワーク上で行われる仮想戦闘ゲーム「AVALON」にのめり込んでいた。そしてこのゲームに勝利し、ゲーム中に得たポイントを現金化することを生活の糧にする者もいた。主人公であるアッシュもそんな一人である(彼女は以前、伝説的なパーティ「WIZARD」の前衛戦闘担当の戦士でもある)。
ある日、最高クラスであるクラスAの戦闘を終えた彼女はある噂を耳にする。クラスAを上回るSpecialA(SA)が存在すると言うのだ。 探りを入れるアッシュだが、答えは見つからない。唯一引っかかったキーワードは九姉妹。アーサー王を楽園「AVALON」に導いた妖精達の名だ。このキーワードを手がかりに、彼女は次第にSAの秘密への近づいていくのだった。
<感想>
押井監督の実写作品というと、「紅い眼鏡」「ケルベロス」「トーキングヘッズ」などがあるわけだが、その評価はすこぶる低い。冗長で観念的な台詞回しや、役者(声優が大半なのだが)の過剰な演技が、嫌われる所以なのだが、確かに見ていると少々辛いものがある。それなりに面白いとは思うのだけれど、人に薦めることは出来なかった。
今回の「AVALON」も実写作品である。しかし、その画はこれまでの作品とは一線を画している。カットの割り方、描写の手法が、アニメ的なのである。実写で撮影した物を、デジタル加工により大幅に書き換えている点も、アニメ的に感じる大きな要素となっている。 単に、アニメを実写にしたと言うわけではない。実写とアニメの要素を高次元でハイブリット化した、新しい映像に作り上げられているのだ。これはマトリックスより半歩先行く未来感覚だ。
物語は、現実世界と仮想世界への反復を繰り返す。それはやがて、現実と仮想の境界がわからなくなるという効果を生みだす。特にクラスリアル(SA)と言われる世界に没入した際に、それは顕著に現れる。それまではネットワーク上でやりとりされるデータ量の問題からほぼ単一色(アンバーイエロー)だったゲーム世界が、フルカラーに変わるのだ。アッシュのステータスもデフォルトの状態に戻され、武装もオートマチックの拳銃が1丁だけ。身体感覚まで、現実世界に近いものに巻き戻される。またその直前に、ゲーム世界から現実世界に戻った際の描写も、実はそこも仮想世界では無いのか?ということを暗示している。それは、現実世界では買っていた愛犬が、姿を消していることが象徴している。
作品に没入していると、私まで現実感を喪失していった。
作品を鑑賞する際のサブテキストとして、初期のパソコンRPG「WIZARDRY」と、最近のFPS系ネットゲームの知識を詰め込んでおくと良いだろう。正直、この知識がないと作品世界にとけ込むのは難しいだろう。
「アンカーウーマン」 ’96米
原題 UP CLOSE & PERSONAL
監督 ジョン・アブネット
原作 アランナ・ナッシュ
脚本 ジョアン・ディディオン、ジョン・グレゴリー・デューン
音楽 トーマス・ニューマン
評価 ★★★
<内容>
ニュース・キャスターを目指すタリーは、お天気お姉さんから始め、プロデュ ーサーのウォーレンのサポートもあり、少しづつ成功の階段を登って行く。しか
し、局の移籍を体験するが、次第に希望のアンカーに近づいていった彼女に、思 いもしなかった事件が襲いかかる・・・。
<感想>
同傾向の映画として「ブロード・キャスト・ニュース」があるが、ウイリアム・ハート主演ということもあり、シリアス・タッチであまり女性受けが良くなかった。しかし、今作はロバート・レッドフォードとミシェル・ファイファーを起用することにより、大人のロマンスを演出することに成功。そして、ロマンス一辺倒ではなく、ニュース業界の虚飾に満ちた舞台裏や、社会問題も盛り込むことによって、物語に一本芯を通すという周到な脚本により、作品全体としての完成度も高い。
出来過ぎの感があり、個人的印象はあまり良くないが、お勧め度は高い。また、ミシェル・ファイファーが次第に洗練されていく過程は中々興味深く、女性には必見とも言えるかもしれない。
「アンダーグラウンド」 ’95仏・独・ハンガリー合作(セルビア語)
原題 UNDERGROUND
監督 エミール・クストリッァ
原案・共同脚本 デュシャン・コバチェヴィチ
音楽 ゴラン・ブレゴヴィチ
美術 ミリェン・クリャコヴィチ
出演 ミキ・マノイヴィチ、ラザール・リストフスキー、ミリャナ・ヤコヴィチ
評価 ★★★★★
<内容>
舞台は第2次世界大戦下のユーゴスラヴィア。共産党員でレジスタンスのマルコとクロはドイツ軍から兵器を強奪し、裏で密売するという荒稼ぎを行っていた。もちろん、ナチス党員からは当然のごとくマークされ、取り締まりは強化された。そしてマルコとクロは、ナチスに追われた避難民を地下にかくまい、武器の製造を行わせるようになった。
数年後、ある事件が原因で重傷を負ったクロも地下で生活することを余儀なくされた。
20年後、マルコはクロを含めた地下の人達に、まだ外は戦争中と偽りの情報を与えて外に出させず、私腹を肥やすための武器を製造させていた。
しかし、クロは息子の結婚を契機に、地下から出ることを決意する。そして、外に出た彼が見たものは、あまりにも変わり果てた故国の姿だった・・・・。
<感想>
この作品の是非を巡り、大論争が起きたようですが、私はこの作品傑作だと思います。
ブラス楽器の演奏に導かれ、時に笑わせ、時に悲しませ、また考えさせられる、物語展開のダイナミズム!これぞ映画の醍醐味と感じつつ、映画の地平線が僅かながら拡がったようにも感じました。
とにかく体験してみてください。体験に優る経験は有りません。凡百の映画評より、自分の感性です!解釈は見る側の自由なんですから・・・。
「アンフォゲタブル」 ’96米
原題 UNFORGETABLE
監督 ジョン・ダール
脚本 ビル・ゲディ
撮影 ジェフリー・ジャー
音楽 クリストファー・ヤング
出演 レイ・リオッタ、リンダ・フィオレンティーノ、ピータ・コヨーテ
評価 ★☆
<内容>
検死官のクレインは、妻を殺した容疑で起訴される。しかし、証拠不十分の為に釈放された。
事件から1年後、彼は検死を担当した事件の現場にて、妻を殺害した現場との類似点を発見する。彼は、妻の無念を、己の潔白をなんとか晴らそうと、躍起になる。しかし、捜査権を持つ刑事でも無い彼には、犯人に到達する糸口が無かった。そんななか、脳医学者マーサが(記憶の移植)に成功したことを知る。早速コンタクトを取り、自分の体を使った人体実験を申し出る。殺された妻の記憶を移植するために・・・・。
<感想>
見る前に、友人のアーノルド君から「サック(最低)な映画」と言われてしまい、(見る)気力が大幅に減衰。キャストと製作連中を見ると、「甘い毒」を作った監督と主演していたリンダ嬢に、撮影は「ライブ・ワイヤー」のジェフリー。ああっ、あちこちからB級テイストな香りが・・・・。
おそらくアーノルド君は、レイ・リオッタが主演をしているので、Aの中級クラスの映画を想定して見たのだろう。それならば怒っても無理の無い仕上がりだ。しかし、B級の中以下を想定すれば、荒い脚本も、荒い映像も納得のいくというもの。さらに、元FBI特別捜査官ロバート・K・レスラーの推薦文が付いていることから、彼がこれまでに推薦を寄せた作品を並べてみると・・・・。そう、そんな感じの映画さ。
「いつか晴れた日に」 ’95米
原題 SENCE AND SENSIBILITY
監督 アン・リー
脚色 エマ・トンプソン
原作 ジェーン・オースティン
出演 エマ・トンプソン、ヒュー・グラント、ケイト・ウィンスレット
評価 ★★★
<内容>
舞台は19世紀のイングランド。父ヘンリーは、前妻との間の息子ジョンに後妻と3人の娘、エリノア、マリアンヌ、マーガレットの世話を頼み、死の床につく。ケチなジョンの妻ファニーは僅かばかりのお金さえ与えることを惜しみ、彼女達に辛くあたる。
居心地の悪い日々を過ごす姉妹だったが、ファニーの弟、エドワードとの出会いにより一時の安らぎを得るのだった。
<情報>
イギリスの女流作家ジェーン・オースティン原作の「いつか晴れた日に-分別と多感」を主演のエマ・トンプソン自身が脚色。監督は台湾出身のアン・リーが担当。
<感想>
アン・リーが監督を担当するということで凄い期待をしながら見始めたら、エマ色が強すぎるということで途中からゲンナリ。過剰なまでのエマの露出もどうかと思うが、そもそも姉妹の年が離れ過ぎてやしないかい?(物語の中での年齢設定は知らないけれど)エマとケイト・ウィンスレットが姉妹っていう設定もねえ?親子だろ(笑)エマは映画の裏方に徹して、主役はヘレナ・ボナム・カーターあたりにすれば、無理の無い作品に仕上がったと思うのだけれど、どうか?
「イノセンス INNOCENCE」 `04日本
監督・脚本 押井守
原作 士郎正宗
作画監督 黄瀬和哉、西尾鉄也、西久保利彦、沖浦啓之
演出 西久保利彦、楠美直子
美術監督 平田秀一
プロダクションデザイナー 種田陽平
音楽 川井憲次
声優 大塚明夫、田中敦子、山寺宏一、竹中直人
評価 ★★★★
<内容>
2032年、多発するアンドロイドによる所有者の殺害事件。アンドロイドは殺人を行った後に自壊してしまう。テロの可能性も考えられ、公安九課も事件の捜査を開始した。九課のバトー、トグサはアンドロイドの製造メーカー、ロクス・ソルス社を追い、択捉へと向かうのだった・・・。
<感想>
作品の骨格をなすストーリー自体はちゃんと追っていけば分かる程度に、さほど難解ではない。しかし、最低でも前作を先に見ておかないと、作品世界の設定や世界観が掴めず、ついて行けない。士郎正宗の原作まで読み込む必要はないが、山田正紀による、前作と今作を繋ぐ小説を読んでおくと、今作にすんなりと入りやすいだろう。
映像のレベルはアニメ史でも過去最高レベルと言える。ここまでディテールに凝り、画面内に映し出される情報量の多いものは、今後もそう出てくる物では無い。監督レベルのアニメーターが何人も作品に参加しており、作品全体に渡りdominoでデジタル加工処理をするなど、コストパフォーマンスは相当に悪いと思われる。よくもこんな作品を作り上げたと、驚嘆する思いだ。
先にストーリーラインはさほど難しく無いと書いたが、それを理解したと言うことは、作品世界の表層的なものを掴んだに過ぎない。(生身の)人間、義体化した人間、ゴースト(魂)の無い人形。これらの関係性など、作品内で提示されたテーマを味わうのにはかなり時間を要すると思われる。私自身、表層的なものしか感じ取れていない。DVDを購入し、何度も繰り返して見てみたいと思う。
「イノセント・ライフ」 ’93スウェーデン
原題 THE SLING SHOT
監督 アーケ・サングレン
撮影 ゲーラン・ニルソン
音楽 ビョラン・イスフェルト
出演 ジェスパー・サレン、ステラン・スカルスガード、バシア・フライドマン
評価 ★★★☆
<内容>
ユダヤ系移民のローランドは、両親、兄と共にスウェーデンにて暮らしていた。家ではボクシング好きの兄に虐められ、学校では両親が共産主義者ということで、教師たちから迫害を受ける彼は、毎日を悶々と過ごしていた。
そんな辛い毎日を過ごしていた彼だったが、両親が隠れて販売していたコンドーム(この当時のスウェーデンでは、コンドームの使用・販売は違法)を発見し、それを風船として売ったり、パチンコとして売って小遣いを稼いだことにより、もっと過酷な運命に襲われるのだった・・・。
<感想>
スウェーデンの映画は、ヨーロッパ映画の中でも一番のお気に入りで、好んで見ている。それは、イングマール・ベルイマン監督の影響というものも有るのだけれど、それ以上にこの国の映画の多くに見られるどこかノスタルジーをかき立てる映像&音楽や、悲しいけれど詩情味溢れる物語に因るところが大きい。そしてこの映画も、そんなスウェーデンならではの作品の一つ。静かにだけれど、力強く訴えてくる物語。本国のアカデミー賞で最優秀賞をとり、同年のアカデミー外国映画賞にノミネートされるだけのことはある佳作です。是非お試しあれ。
「イル・ポスティーノ」 ’95伊・米
原題 IL POSTINO(THE POSTMAN)
監督 マイケル・ラドフォード
脚本 アンナ・パヴィニャーノ、マイケル・ラドフォード
音楽 ルイス・エンリケ・バカロフ
評価 ★★★★
<内容>
1950年代のイタリアの小さな島に、チリから追放された詩人パブロ・ネルーダがやってきた。マリオは郵便配達人として、詩人の元に毎日手紙を運ぶ。毎日の交流から、マリオも詩への興味を募らせていく。
ある日、彼は島一番の美女、ベアトリーチェに一目惚れしてしまう。詩を彼女に捧げてなんとか気を惹こうとするのだが・・・・。
<感想>
マリオは詩人と出会い、メタファーという概念を知った。それにより彼は、自分を取り巻く世界の美しさを再認識しはじめる。彼の今までの価値観は崩壊し、新たな価値観が導入された。
しかし、この新たに得た価値観は彼の内から自然と湧き出て来たものでは無い。詩人の言動に影響を受けて出来たものだ。つまり、詩人からは体系立てた思想や知識の伝達は行われない。よって思想することに対して無自覚なマリオは、行動することが大事だとだけ考えてしまう。ここらへんは、60年代末期の考え無しにお祭り気分で数々の問題を起こした全共闘世代達と通底するように感じられる。よって、僕は彼の死に対し同情の気持ちを持つ反面、自業自得だなという気持ちも併せ持つ。
知恵と言うものの持つ、2面性がこの作品には良く現れていると思う。
「イングリッシュ・ペイシェント」 ’96米
原題 THE ENGLISH PATIENT
監督・脚本 アンソニー・ミンゲラ
原作 マイケル・オンダーチェ
撮影 ジョン・シール
音楽 ガブリエル・ヤール
衣装 アン・ロス
出演 レイフ・ファインズ、ジュリエット・ビノシュ、クリスティン・S・トーマス、ウィレム・デフォー
評価 ★★★
<内容>
看護婦ハナは、重傷を負った身元不明の男と出会う。イングリッシュ・ペイシェントと名付けられたその男の命は、もうそれほど長くはない。彼女は彼を看取る為、帰国する仲間と離れた。
無人の小さな小城を仮住まいとしていた二人のもとに、患者の過去に関わっているらしいカナダ人カラバッジョと、インド系イギリス人で、爆弾処理班の少尉キップが訪れた。各々目的は異なるが、ハナ達と生活を共にするようになる。
次第に記憶を取り戻していく患者。それは、アフリカの砂漠で遺跡調査の際に出会った人妻キャサリンとの激しくも悲しい恋の記憶だった・・・。
<感想>
過去に囚われた男女達。その記憶は重い鎖のように彼等を縛り付け、生きるという意志を希薄にしていた。しかし、作品終盤において、三人は未来を目指して生きることを選び、一人は失われた愛を成就させるため、過去を選ぶ。それぞれの決意は重く、その決断は一様に潔く、美しい。
このことに気付くと、この映画は輝き、静かな感動を与えてくれるでしょう。
「陰謀のセオリー」 ’97米
原題 CONSPIRACY THEORY
制作 リチャード・ドナー、ジョエル・シルバー
監督 リチャード・ドナー
脚本 ブライアン・ヘルゲランド
音楽 カーター・バーウェル
評価 ★★☆
<内容>
タクシー運転手ジェリーの記憶は錯乱していた。彼が信じているの陰謀説、そして信じられる人間は司法省に勤めるアリス。だが、彼女の方は彼の言葉を信じているわけではない。ただ、暴漢に襲われているところを彼に助けられたという経緯があるために、無下に出来ないだけ。しかし、彼が本当に何者かに追われていることを知る。そして、彼女自身も狙われることとなってしまうのだった・・・。
<感想>
個人的に陰謀史が好きで、その種の本を時々購入したりする。メーソンの起源なんてのを建築家集団という側面から追っていくと、ペルシャやギリシャ密儀を経由し、エジプトまで辿れてしまたっりして、その手の探求を始めると飽きると言うことがない。(ちなみに私のハンドル名であるアシュタルは、メーソンの信奉する神の一つであるバール神に戦いを挑んだ事で知られる。勝敗の結果は負けだけれど、他の土着神と習合し、キリスト教の世界では大悪魔アスタロトなんてのになっている)
だから、この映画の設定を聴いたときには、結構な期待を寄せたわけ。主人公を追いかける組織はトゥーレ協会?それとも長老会議か?まさか・・・。などと、妄想は膨らむばかりだった。
しかし、映画を見終わってみると、その期待は私の妄想でしかなかった。良い意味で裏切られていたというのではない。予想の内には有ったが、それは無いだろうと考えていた最悪の筋立てだったのだ・・・。
そもそも、主人公がわめき立てる陰謀史からして陳腐だった。もうちょっとペダンティックなものを盛り込めなかったのだろうか?これではあまりにチープだ。
と言っても、期待さえ寄せなければ、そこそこ見られる映画でしょう。暇で暇ですることが無いという方にお奨め。
「ウインター・ゲスト」’97英
原題 WINTER GUEST
監督 アラン・リックマン
脚本 シャーマン・マクドナルド
撮影 シーマス・マクガーヴィー
音楽 マイケル・ケイメン
出演 エマ・トンプソン、フィリダ・ロー、ゲイリー・ハリウッド、アーリーン・コックバーン
評価 ★★★☆
<内容>
半年前に夫を亡くし悲しみにくれる娘(フランシス)の元に、母(エルスペス)が訪れる。彼女の身を案じてやってきたのだ。しかし、向かい合うといがみ合うばかりだった・・・。
<感想>
人間関係の最小単位は、改めて言うまでも無い事だが二人である。この関係を成立、維持させる為には、お互いの存在を認めあうことと、受け入れる事が必要に成る。この物語では4人のカップルを通し、繰り返しこのことが語られていく。
この例として最も重要なシーンをあげておこう。それは、母親が娘に自分のことを「マザー」ではなく名前で呼んでくれと叫ぶくだり。自立を望む娘と、まだ必用とされたいがために自分の庇護の下に置こうとしていた母親が、新しい関係を築き始めるきっかけとなる重要な場面だ。母親や娘という属性を超えて、一人の独立した人間であるということを認めあい、その存在を受け入れあう。映像としてみると数秒のシーンにしか過ぎないが、そこに托されたメッセージは大きい。見過ごす事が無いように。また本作には、このようなシーンが何ヶ所か織り込まれている。注意して見て下さい。
<余談>
全編に渡り鳴り響くピアノを演奏しているのは、音楽担当でもあるマイケル・ケイメン(マイケル・ナイマンじゃないので、注意するように)。これまでにリーサル・ウェポンやダイ・ハードシリーズの音楽を担当している。で言いたいのは、エンディング・ロールに流れる「TAKE
ME WITH YOU」。この曲のみヴォーカル曲で、歌うのはコクトー・ツインズのエリザベス嬢。コクトーとは異なった唱法なので、彼女のファンは必聴。
また、今作の監督は「ダイハード1」や「いつか晴れた日に」でお馴染みのイギリス俳優アラン・リックマン。今作が戯曲であった段階から関わっているとのこと。
「ウェールズの山」 ’95英
原題 THE ENGLISHMAN WHO WENT UP A HILL BUT CAME DOWN A MOUNTAIN
監督・脚本 クリストファー・マンガー
音楽 スティーブ・エンデルマン
評価 ★★★
<内容>
舞台はウェールズの小さな村。何の名物も無い村で、唯一自慢できるのは小高い山。そして、そこへ地図作成の為にイングランドから測量技師がやってきた。さっそく測量を始める技師。すると、山と認定するには6メートル低いことが・・・。大いに落胆する村人達だったが、一致団結して足りない分を積上げ山にすることになった。懸命に土を積み上げる村人の姿に感動した技師は、再度測量することに。
<感想>
この種のイギリス映画って泣かせるというより、視聴後爽やかにさせるっていう物が多い。で、これもその中の一つ。いやしくも逞しく生きる登場人物達の行動を見ていると楽しくてしょうがないです。
「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」 ’94日
監督・脚本 岩井俊二
音楽 REMEDIOS
評価 ★★★☆
<内容>
「もしあの時、別の選択肢を選んでいたら・・・」という、アドベンチャー・ゲームの様に二通りの展開と、同じく二通りのエンディングを持つ作品。
<感想>
今という時は一瞬のことでしかなく、知覚したと思った瞬間はすでに過去という領域に囚われてしまう。しかし、そのときの記憶は時として純化され、どのような宝石でも及びがつかない輝きを秘める。そしてその大切な宝石は、誰にも見せることの無い自分の心のなかにのみ存在する宝箱にそっと納められる。繊細な細工が施され、脆いようでいてけっして壊れることのない箱。それは、持ち主の人生を豊かに彩っていったり、拠り所となったりする・・・。
そんな箱の存在を思い出させるなにかが、この映画にはある気がする。良い作品だ。
「うなぎ」 ’97日
監督 今村昌平
脚本 富川元文、天願大介、今村昌平
原作 吉村昭「闇にひらめく(「海馬」収録 新潮文庫)
音楽 池辺晋一郎
撮影 小松原茂
出演 役所広司、清水美砂、倍賞美津子、市原悦子、榎本明、田口トモロヲ
評価 ★★★
<内容>
愛する妻の情事を目撃し、衝動的に殺害した山下拓郎は、8年間の刑期を終え出所する。早速彼は、亡くなった母親の保険金と刑務所での作業によって得たお金を元手に、小さな理髪店を営業しはじめた。
ようやく生活も落ち着いたかに見えたある日、彼は河原にて睡眠薬を飲み、昏睡状態で横たわっている女性を見つけた。面倒を避けるため見捨てようとした彼だったが、結局は助けてしまう。なんとか一命を取り留めた彼女は、彼の理髪店にて働くことになった。彼女の人柄か、店は次第に町の社交場のようになり、賑わうようになるのだった・・・。
<感想>
カンヌ映画祭パルムドール受賞は、「他の候補作が暴力的であったこと」、「審査委員長のイザベル・アジャーニを筆頭に審査員の多くが女性であったこと」等の要因から選ばれたと考えていました。そして上記のような要素から、牧歌的な映画を念頭にしてこの映画を見始めてみました。
罪の意識無く、それを犯したことを贖罪しようとする男と、必要とされることを必要とする女。女の心が近づくと男は離れ、女が困っていると男が近づいて助ける。常に距離を保って、接する男女だが、町の人達との交流によって、その距離は徐々に狭まっていく。
と、これだけならば、癒しをテーマにした作品となるのだけれど、血みどろで妻を殺害するシーンを筆頭に、作品中ところどころで暴力が噴出するのが本作の特徴。これが良い意味で作品のフックとなり、物語のテーマが安易な癒しから、さらに深いものへとなっている。妻の情事を告発する手紙の存在も、「巧い」と唸らせるものがある。しかし、パルムドールに値する作品かどうかというと、ちょっと考えさせられるところ。先に記述したことが、受賞した大きな理由占めるという可能性は大きいと思う。
「海辺のレストラン ガスパール&ロビンソン」 ’95仏
原題 GASPARD ET ROBINSON
監督・脚本 トニー・ガトリフ
音楽 ミシェル・ルグラン(シェルブールの雨傘)
出演 ジェラール・ダルモン、ヴァンサン・ランドン、ベネディクト・ロワイアン
評価 ★★★☆
<内容>
失業中のガスパールとロビンソンは、海辺でレストランを開こうと、廃屋を改装していた。そんなある日、ロビンソンは家族に捨てられたお祖母さんに出会う。幼くして母親を無くし、孤児として育った彼は彼女に同情し家に連れ帰る。勿論反対するガスパール。しかし、根は優しい彼は、最後には彼女を受け入れるのだった。こうして、奇妙な3人の生活は始まった・・・。
<感想>
登場人物の誰もが、何かを喪失している。それは娘や妻であったり、母であったり、家屋であったりと様々。そんな境遇ならば、心がささくれ立ち、余裕が無くなっても仕方がないでしょう。しかし、そんな境遇だからこそ、その辛さを知るからこそ、人に優しく接することも出来るのです。このようなメッセージを、私はこの映画からは感じ取りました。
ラストシーンが終わりスタッフロールが流れ始めると、私の心の中は何か暖かいもので充たされていきました。そして、ちょっと人に優しくなれるかなと思いました。
「エイリアン4」 ’98米
原題 ALIEN RESURRECTION
監督 ジャン=ピエール・ジュネ
脚本 ジョス・ウェドン(原案 ダン・オバノン)
出演 シガニー・ウィーバー、ウィノナ・ライダー、ロン・パールマン
評価 ★★★☆
<内容>
エイリアンクイーンの幼体を宿したリプリーが自ら死を選んでから200年がたっていた。エイリアンは死滅したはずだった。しかし、エイリアンの兵器利用を考える軍は彼女をクローン再生する。エイリアンの遺伝子を組み込んで・・・。
<感想>
エイリアンの軍事利用って、W・ギブスンが3のために執筆した脚本に採用されていたような気がするんだけれど、憶え違いだろうか?まあ、誰でも考えそうなアイデアだから、深くは追求しないでおこう(*1)。
さて本作、今日的テーマである、クローニングが主題となっている。勿論、ヒューマニズムよりで、クローニングには反対を訴える。成功に至るまでの実験体の描写や、ラストの展開にそれは顕著だ。
そのくせ、人より人間的な第2世代ロボット(第1世代によって作られた)が登場したりと、倒錯的ブラックなユーモアもあるったりする。このへんは、ジュネ監督ならではの持ち味だろう。
SF的ディテールにこだわると、本作の評価もちょっと危うくなる。外壁に穴が開いた状態で大気圏に突入するなんてねぇ。外壁を瞬間的に仮修復する装置を出すぐらいの小技は欲しかった。
これで4作目に突入したエイリアンシリーズだが、さすがにエイリアン自体のインパクトは失せた(造形に対する生理的嫌悪感はいまでも感じますが)。監督もそのことには気付いているらしく、恐怖感をあおるような描写は少ない。シガニー・ウィーバーとウィノナ・ライダーという二大女優を使っているからかもしれないが、キャラクター間のドラマ的要素の方が多い。このことはマイナスに作用するより、マンネリズムの打開に貢献していると感じる。結果、今作は1に継ぐ出来だと私は考える。2は物量に頼るといういかにもハリウッド的な作品であったし、3は映像以外に見るべきところが無かった。4は、1にはおよばないけれど、80%程度の満足は得ることが出来た(2は50%で、3は20%)。
また、ジュネ監督作品として見ると、物足りないと感じることはたしかだ。他の2作品(デリカッテセン、ロストチルドレン)のほうが圧倒的に素晴らしい。ハリウッド映画として制作された本作は、エンターテイメントを重視しなければいけないことは明白なので、比較することじたいに無理があるけれどね。
ホラー映画を期待して見ると、ガッカリするかもしれない。しかし、何か面白くて、作品的にも凝ったものが見たいという人ならば満足が得られるでしょう。
(*1)
W・ギブスンも脚本制作に参加しているという情報を得ました。次作にはメインライターとして参加して欲しいですね。
「エグゼクティブ・デシジョン」 ’96米
原題 EXECUTIVE DECISION
製作 ジョエル・シルバー
監督 スチュアート・バード
脚本 ジム&ジョン・トーマス
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 カート・ラッセル、スティーブン・セガール
★★(期待を裏切った為に★一つマイナス)
<内容>
指導者をアメリカに拉致されたアラブ系テロリスト達は、彼の釈放と報復の為にジャンボジェット機をハイジャックした。事件を受けて召集されたのはテロ犯罪対策の専門家と特殊部隊。専門家は入手した情報から、機内に数日前に某国にて奪われた化学兵器が積まれていると意見した。国内にて兵器が使用されるのを恐れたアメリカ政府は、警戒域に入る前に、事態を打開することを求める。そこで、飛行中のジャンボに気付かれぬように、特殊改造されたステルス戦闘機を接続し、一気に内部を制圧するという作戦が立案され、実行に移された。
<感想>
映画開始から30分ほど立ち、物語はジャンボ・ジェットとステルス機のドッキングを終え、次々に戦闘員達が乗り込んでいくという山場を迎えた。お約束通りに接続部分が乱気流の為に不安定になる。おおっ!ヤハリ。吹き飛ばされるのは誰だ?下っぱか?と想像していたら、セーガルが吹き飛ばされてしまった。一瞬唖然とする私。だが、「咄嗟に機体にナイフを突き立て、難を逃れるセーガル。強靭的な体力で高速で飛行する旅客機を<神秘的な力で>這いずり、機体に潜り込む」という妄想が頭の中に浮かぶ。不死身のセーガル、そこまで無茶するか!もう、最高!!と一人感激する。
[中略]
物語も最後の山場、救出チームは絶対絶命のピンチを迎える。もちろん、私はセーガルがピンチを救うもんだと頭から信じている。しかし、いっこうに彼は現れようとしない?一番おいしいところを何故持っていかない?もしや、もっとおいしいシチュエーションが後に控えているのか??妄想は止まることが無い。
[タイトルロール終了後]
「なに暗い顔してるの?」
一緒に映画を見た友人が、映画の興奮醒めやらぬといった調子で私に問いかけてくる。
「はぁっ…。」
そう言われても。この誇大しきった妄想の事を話せっていうのかい?
空しい。
見事に期待を裏切ったセーガル。無敵モードの無い映画には出るな(怒)!!
「ザ・エージェント」 ’96米
原題 JERRY MAGUIRE
監督・脚本・制作 キャメロン・クロウ
撮影監督 ヤヌス・カミンスキー
出演 トム・クルーズ、レニー・ゼルウィガー、キューバ・グッディング
評価 ★★★★
<内容>
スポーツ選手のエージェント会社にて、エージェントを行っていたマクガイアは、利益ばかりを追求する会社の方針に嫌気が差し、会社の健全化を目指す提案書を提出する。しかし、それが引き金となり、彼は会社から解雇される。急遽独立することになった彼は、選手を獲得しようと躍起になるが・・・。
<豆知識>
監督&脚本は「SINGLES」で有名なキャメロン・クロウ。主演女優は「 エンパイアレコード」にて、リブ・タイラーの親友を演じたレニー・ゼルウィガ
ー。
<感想>
当初、トム・クルーズが嫌いなので、全く見るつもりが無かった。けれど、監督&脚本がキャメロン・クロウと知り、興味を惹かれて見ることに。
同監督の前作である「SINGLES」で試みられた演出方が、今作では効果的に働いている。物語としては最終的に、いかにもハリウッドな成功を迎えるのだけれど、そこに至るまでの過程も画一的で安易な展開ではない。印象的なエピソードも多く織り込まれている。また、既成音楽を効果的に作品に配置する手腕は、是非とも他の監督にも研究&見習って欲しいところ。かなりお奨めな作品。
「新世紀エヴァンゲリオン Death&Reabirth」 ’97日本
原題 NEONGENESIS EVANGELION
総監督 庵野秀明
監督 摩砂雪
脚本 庵野秀明、薩川昭夫
監督・演出 鶴巻和哉
脚本 庵野秀明
評価 ★★★
<感想>
記憶の断片がネガティブな感情によって連結化し、無意識の内に次々と再現される状態、それを人は<悪夢>と呼ぶ。それは、浮かんでは消える様々な想い(感情)から誘発され、人を恐怖に陥れている。
そして、記憶を物語に置き換えてみると、この映画の篇となるのではないだろうか?次々と画面に映し出される歪な物語の断片。細い糸(意図)によって連結されたそれは、見る者の心を作中人物であるシンジ君のように激しく追いつめていく。かくして、危険を察知した親たちは、子供の手を引き、上映開始数分にして劇場を去っていくのだった・・・。
「エビータ」 ’96米
原題 EVITA
監督 アラン・パーカー
脚本 アラン・パーカー、オリバー・ストーン
撮影 ダリウス・コンジ
音楽 アンドリュー・ロイド・ウェバー
作詞 ティム・ライス
出演 マドンナ、アントニオ・バンデラス、ジョナサン・プライス
評価 ☆
<内容>
アルゼンチでは聖女として崇められている、大統領夫人エバ・ペロンの波乱に満ちた生涯をミュージカル仕立てにして物語った映画。
<感想>
ミュージカルというよりはロック・オペラ的な映画。そこで思い浮かべたのは、ピンク・フロイドのロック・オペラ「THE WALL」。監督も同じということで、オープニングの暴動のようなシーンに類似点が見い出せます。
しかし、表現の中心が音楽な映画ですから、とにかく気にかかるのは楽曲の出来。まずはマドンナのヴォーカルがひどい。個人的に好きでは無いという理由を差し引いても、まだひどい。なにせ、この種の音楽で要求される声域の広さを持っていないため、メロディーラインに幅を持たすことが出来やしない。もう、これだけで作品の魅力が激減。さらに言うと、曲そのものに魅力が無い。(最近噂を聞かないロジャー・ウォーターズやピート・タウンゼントに参加を頼めば、もう少し面白い物が出来たと思うのですが、いかが?)「こんな映画誰が見るの?」とまで言ってしまいましょう。(地獄のライダーのような仰々しいロックオペラが好きなアメリカ人って結構いるから、そこらへんの層に受けたのかな?)
いやー、大嫌いですこの映画。久々に全く波長が合わない映画でした。これで益々マドンナのことを嫌うことが出来ます(笑)
「エマ」 ’96英
原題 Emma
監督・脚本 ダグラス・マクグラス
原作 ジェーン・オースティン
衣装 ルース・マイヤーズ
音楽 レイチェル・ポートマン
出演 グヴィネス・パルトロウ、ユアン・マクレガー、ジェレミー・ノーサム
評価 ★★★★
<内容>
年頃のエマは、自分の恋など考えず、友人達のキューピット役に夢中。思いこみの激しすぎる彼女は、人の心などお構いなしに話を進めてしまう。しかし、そんな彼女も、恋を知るようになるのだった・・・。
<感想>
まずは個人的に楽しめたエピソード。映画「サークル・オブ・フレンズ」にて嫌みな会計士を演じていた役者(名前知りません)が、今回は牧師として出演している。エマはその牧師に合う女性を紹介するという設定。で、この牧師、当初はなかなかの好青年を演じている(目が怪しいけど)。おっ?今回は性格の良いキャラクターなのか?と先を見ていくと案の定。徐々に本性を表し、嫌みな性格を見せ始めていく。ここで私なんかは手を叩き、喝采してしまった。そして、この嫌味ぶりがなかなか堂に入っていて上手い。陰湿というのではなく、ちょっとコミカライズしたような感じ。偽善的な小悪人といったところか。
さて、本編について。古典的な恋愛小説だけあって、少女漫画に例を取るまでもなく、物語における恋愛の構図はざまざまなドラマに利用されているため、新鮮味は無い。そしてこれは作品の作られた時代背景に因るところが大きいのだけれど、階級の差による差別というものが露骨に作品に現れている。途中、エマと友人がジプシーの追い剥ぎにあうあたりなどでは、嫌悪感すら感じた。
しかし、このところにさえ目を瞑れば、作品としての出来は良い。これまで出演してきた映画では陰の薄かったグウィネス・パルトロウであるが、今作ではなかなかの演技を見せてくれる。ユアン・マクレガーが出演していることも、注目に値するだろう。
同様にジェーン・オースティンの原作となる「いつか晴れた日に」や「待ち焦がれて」、ケネス・ブラナー監督の「空騒ぎ」「ピーターズ・フレンズ」がお好きという方は、お気に召すでしょう。
「エンパイア レコード」 ’95米
原題 EMPIRE RECORDS
監督 アラン・モイル
脚本 キャロル・ヘッキニン
撮影 ウォルト・ロイド
評価 ★★★☆
<内容>
閉店係のルーカスは、店が大規模チェーンに買収されることを知り、店を救おうと売上持ってラスベガスに向かう。一回目は大勝ちしたものの、2回目でオケラに。
翌日、何も知らない店長のジョーはいつも通りに店にやってくる。しかし、オーナーから売上が納められていないとの電話により、異常な事態に気付く。
何もかもが異常な一日。しかし、これはエンパイアレコード最悪の日のほんの始まりでしかなかった。
<感想>
いやー。イカすよ、この映画。
売上をとんずらされて苛立つジョーのバックに流れるのは、J・ヘンドリックスの「HEY JOE」。怒りおさまらずドラムセットに向かい叩くのはAC/DC。
音楽好きにはたまらないヨタ話(ミスフィッツが最高ってのは解るが、PRIMUSを評価しないのは変だぞ?たしかに、ピクシーズも良いけど)タップリで、見ている間中顔が緩みっぱなし。
でも何より気にいったのは、作品中の架空アーティスト、レックス。悩殺物の暑苦しいルックスに、輪をかけたように濃厚な歌。嫌味な正確設定までドンピシャで、もう最高!アルバム出てれば、マジで買ったかも
「オセロ」 ’96米
原題 OTHELLO
監督・脚本 オリヴァー・パーカー
撮影 デイヴィッド・ジョンソン
音楽 チャーリー・モール
出演 ローレンス・フィッシュバーン、ケネス・ブラナー、イレーヌ・ジャコブ
評価 ★★★
<内容>
限り無い野望を秘めた男イアーゴ。巧みな工作によりオセロの妻、デスデモーナの不貞をでっち上げる。奸計にはまったオセロは、妻への深い愛ゆえに倩疑の気持ちを募らせていくのだった・・・・。
<感想>
ある図書館では、シェークスピアの作品が殆ど読まれていないため、本棚から撤去する予定だと伝え聞く。とは言え、シェークスピア作品を1つも読んでいない私には、非難する資格も、嘆く資格もありゃしない。カフカやドストエフスキーが撤去されたら怒るけれどね。
と、本の世界ではほとんど若い人達にアピールしないシェークスピア作品ではあるが、映画の世界では数年前からシェークスピアのブームにある。もちろん、そのブームを創り出したのは今作にも出演しているケネス・ブラナーだ。「ヘンリー五世」で監督デビューし、「愛と死の間で」により脚光を浴び、「空騒ぎ」にて今のブームを創り出した。とまで言っても、決して言い過ぎではないだろう。
で、肝心の評価なんだけれど、「空騒ぎ」などと異なり、何度も映画化された「オセロ」のような作品の場合、原作をどのように解釈し、表現しているかということが、かなり重要なのではないでしょうか?とすると、先に言いましたように、シェークスピアの小説を手にしたことが無い私には、この映画を語ることが出来ないのでは?と(オセロの筋立てもこの作品で知りました・・・)。
と、逃げを打っていおいて、感想(^^;
最近製作されたシェークスピア関連の作品にも共通することなのだけれど、全体的な物語のテンポは速い。テンポが遅いと、現代の若者が耐えられなくなるといった要因に因るとことが大きいと思うのだけれど、古典の苦手な私にはとても有り難い。
そしてこの作品の場合、このスピーディーな展開が物語の持つ緊迫感を高めることに寄与している。イアーゴの邪な心に踊らされていくオセロの描写は、アクション映画を見ているかのようだ。ここで、ローレンス・フィッシュバーンをオセロに起用した効果は大きく、他の俳優では上手くいかなかったであろう。
物語の古典として楽しむのも良いが、モダンな解釈によって新たな生命を得た作品として楽しむのが良いでしょう。
「乙女の祈り」 ’94ニュージーランド
原題 HEAVENLY CREATURES
監督・共同脚本・共同製作 ピーター・ジャクソン
製作 ジム・ブース(遺作)
共同脚本 フランシス・ウォルシュ
音楽 ピーター・ダゼント
挿入歌 マリオ・ランザ
出演 メラニー・リンスキー、ケイト・ウィンスレット
評価 ★★★★
廉価版が発売されたので購入。どこかのBBSでレビューしたけれど、再び新しくレビュー。
<内容>
内向的で人付き合いの下手なポウリーンは、イギリスからの転校生ジュリエットと親しくなった。感受性豊かな二人は、「ボロヴィニア王国」なる物語を創作するなど、常に行動を共にするようになる。そんな二人の関係に不信を抱いたジュリエットの父は、二人に精神鑑定を受けさせようと、ポウリーンの母親に提案する。そして同性愛傾向があるとの診断が下ったため、二人の両親は彼女たちの親しい交際を禁じた。思い悩む彼女たち。やがてポウリーンは全ての原因は自分の母親にあると考え、二人で彼女の殺害を計画する・・・・。
<感想>
ピーター・ジャクソンの最高傑作にして、彼の作品中で最もバッド・テイストな映画。「ブレイン・デッド」「ミート・ザ・フィーブルズ」も悪趣味だったが、視聴後の後味の悪さはこれが一番ひどい(^^;
物語は、実際にニュージーランドで起きた事件をベースに作られている。よって、訴えてくるものは結構強烈だ。で、役者の演技の素晴らしさが、それを倍加させているので始末に終えない。数日間は悪夢にうなされること請け合い。と、奨めてんだか何だか解らない紹介だけれど、D・リンチの「ブルー・ベルベット」あたりが大好きという感性をお持ちの方なら、フェイバリットな1本になるはず。お試しあれ。
「鬼火 ONIBI」 ’97日
監督 望月六郎
原案 山之内幸夫
脚本 森岡利行
音楽 神尾憲一
出演 原田芳雄、片岡礼子、哀川翔、奥田瑛二、北村康、南方英二
評価 ★★★
<内容>
かつて火の玉の異名を取り恐れられた国広は、長い刑期を終えて出所した。堅気の世界に憧れるも、またヤクザの世界へと舞い戻ってしまう。そんな中、クラブでピアノを弾く麻子という女性と知り合った。どこか影のある彼女に惹かれ、一緒に暮らし始める二人。しかし、安穏とした生活はそう長く続くことはなかった・・・・。
<感想>
原田芳雄から松田優作へと続く、日本ハードボイルド映画俳優の系譜。その後継者に足る人物は未だ現れない。そのことに業を煮やしたという訳では無いでしょうけれど、その大御所原田芳雄が久々に重い腰を上げたのが、今回の作品。(とは言え、原田芳雄のハードボイルド映画って数が少ないんだよね。)
いやー、相変わらず原田芳雄の存在感は良いねぇ。暴力を常道手段とした男の狂気も良く出ているけれど、そうでしか生きられない男の哀愁もたまらないね!ハーヴェイ・カイテルあたりにちょっと近いものがあるよね。
で、他に気になったのは競演の片岡礼子。この女性って、佐藤藍子に似てません?彼女と比較すると暗そうなんで、裏・佐藤藍子というか、ダーク・ホビット(耳に注目)と言いましょうか(笑)
と、余談はさておき、和製ハード・ボイルドにしては、中々の佳作に仕上がったこの「鬼火」。ヤクザ映画ファンというより、新宿鮫シリーズや不夜城などのネオ・ハードボイルドが好きな人にお勧めです。がっかりすること無く楽しめます。
